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Thursday, December 03, 2009

バス考

【12月3日特記】 昔のバスは床が板張りだった、などと言うと若い人は仰天するかもしれないが、僕には辛うじてうっすらとその記憶がある。

当然その頃は料金や回数券を入れる機械なんかなくて、切符を切るハサミと切符やお釣りの入ったカバンを持った車掌さんが載っていた。

もちろん車内では録音されたアナウンス・メッセージなんか流れてなかった。それが始まったのは床が木製でなくなって、料金箱ができて車掌さんがいなくなって、それからさらに暫くしてからのことである。当初は当然のことながら運転手が自ら「次はどこそこ」とマイクで言っていた。

それがいつの間にか録音テープが流れるようになり、そして、そのテープの内容にいつからか「車が動いている時に席を替わるのは危険ですのでおやめください」という一節が入るようになった。

僕はこのフレーズを初めて聞いた時に本当にびっくりした。

僕はそれまで、自分が降りる停留所が近づいてくると、ともかく早めに席を立って前のほうに移動して、運転手や他の客をできるだけ待たせずに降車することに、本当に汲々としていた。中には、降りるのにもたもたしていると軽く睨んだり嫌味を言ったりする運転手さんもいないではなかった。

そういう時代だったということもある。そういう風潮からだんだん乗客の安全を重視するように変わってきたとも言える。ただ、今なら心の底からお客様の安全第一と考えている従業員もいるだろうが、当時は多分、下手によろけて怪我されて訴えられたりするほうがよほど面倒だという発想が出発点だったのだと思う。

で、バス会社や従業員のほうがそんな感じであったのと呼応して、僕自身がそういう少年だったということもある。

なにしろ誕生日に何が買ってほしいかと親に訊かれて、「何もほしくない」と答えて親を困らせた幼稚園児だった。

ともかく他人に迷惑をかけないこと、他人に借りを作らないこと、他人に疎まれないこと、そんなことだけを考えて心がけて、僕は生きていたように思う。

だから、自分が降りる停留所に着いた瞬間に降りられるように、万事おさおさ怠りなく備えていた。

それが、ある日突然「車が動いている時に席を替わるのは危険ですのでおやめください」と言われるようになって、一体どうしたら良いんだ、と僕はかなり困惑した。

じゃあ、車が完全に停止してからやおら立ち上がってツカツカ歩いて行って良いのか?──そういう自分を想像するだけで既に居心地が悪かった。

時代が変わって客商売のあり方が変わってきた。僕自身の生き方も変わってきた。

今日、久しぶりにバスに乗って、そんなことを考えた。

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