映画『蘇りの血』
【12月20日特記】 映画『蘇りの血』を観てきた。
僕は『空中庭園』まで豊田利晃監督を知らなかったのである(まあ、脚本家デビューの『王手』は観てたけど)。で、『空中庭園』でまさに度肝を抜かれたわけだ。
あの映画公開の時にはすでに麻薬だったか覚醒剤だったかで逮捕されていて、それで4年のインターバルが空いてしまった(なんてことは、しかし、どこにも書いてないなあ)。パンフレットも明らかに豊田監督のページを削除した跡があり、なんか寂しかった記憶がある。
で、ともかく罪を償った形での復帰である。新作に対する期待は大きい。
開映前から流れている音楽に非常に惹かれる。こんなにドラムスが前面に出たバンドは聴いたことがない。これが TWIN TAIL というバンドであり、そしてこのバンドのドラマーである中村達也が主演である。
知らないバンドの知らないドラマーだと思っていたのだが、プロフィールを読んでみたら、なんと BLANKY JET CITY のドラマーではないか! ああ、なるほどと合点が行く。
そして、このバンドのライブに映像作家として参加しているのが豊田監督なのだそうである。そういう縁でのキャスティングである。
そして、言うなれば、この映画はまさに TWIN TAIL のミュージック・クリップである。映像に中味がないと言っているのではない。それほどまでに音楽と映像が一体化しているということである。
この映画では音楽は「サウンドトラック」でも「劇伴」でもない。音楽と映像がぴったりと重なって層を成しているのである。
それは、しかし、逆に言うと、一般の映画ファンからすれば音楽が前面に出過ぎていると言えるのかもしれない。例えば蘇りのシーンなんて、1曲が終わるまで映像を引き伸ばしたような感じを覚えるかもしれない。僕には音楽がフィットしていたので、決してそんな感じはなかったが・・・。
この映画は力作ではあるが、大作ではない。時間も短めだし、筋も単純だ。だから、『空中庭園』のような複雑で完成度も高く、うねるような作品を期待して観に行くとがっかりするかもしれない。ちょうど豊田監督復帰の慣らし運転みたいな感じである。
時代は昔。しかし、500年前なのか1000年前なのかよく分からない。それほど史実の縛りを受けていない世界である。
そこで按摩師であるオグリ(中村達也)が暴君の大王(渋川清彦)に逆らったために殺されてしまう。地獄の入口まで行くが、門番(板尾創路)と交渉して現世に戻してもらうことにした。ただし、手足の自由もきかない「餓鬼阿弥」の姿となって。
そして、大王の側室であったテルテが生き返ったオグリとめぐり逢い、オグリの乗ったいざり車を引いて山道を「蘇生の湯」まで長く苦しい旅を続ける、という話だ。
小栗判官伝説と熊野神話に基づき、クライマックスの斬首のシーンは魯迅を踏まえていると言うから、なかなか仕掛けは深い。しかし、目にみえてくる筋は単純である。魚を切るシーンなど、いかにもこの監督らしい迫力に満ちたシーンも多い。
テルテ姫を演じているのが草刈麻有である。若い頃のお父さんと同じ眼をしている。草刈正雄はモデルが長く、途中から歌や芝居をやりだしたので最初は歌も芝居もヘタクソで見ちゃいられなかったが、娘はまだ15歳(今年で16歳)だと言うから将来有望である。
見応えのある小品だった。終わり方も良い。そして、特に音楽に惹かれた。次は必ずや『空中庭園』クラスの作品を撮ってくれるだろうと思う。
★この記事は以下のブログからTBさせていただきました。
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Posted by: 日本インターネット映画大賞 | Monday, December 21, 2009 09:25