『フリー』クリス・アンダーソン(書評)
【12月27日特記】 『ロングテール』は僕が今までに読んだ Web 関連のマーケティング論の中では抜きん出て面白く説得力のある書物であった。そして、同じ著者によるこの本も、前作ほどのインパクトはないものの、論点はしっかりしており、真摯な調べ方をしているのが伝わってくるし、立ち位置も非常に好感が持てる。
出版界の人間がこういう本を書くと往々にしてインターネットに対する偏見と憎悪だけが前面に出たものになりがちなのであるが、さすがに『ワイアード』編集長である。時流を正しく見抜いている。
ここでは内容についてはあまり深く触れないでおく。要はロングテールの次はフリーなのだ。そして原題"FREE"には"THE FUTURE OF THE RADICAL PRICE"という副題がついている。そう、確かにフリー(無料)と言うよりも、急進的/過激な価格(の変動)と言った方が論旨が伝わるかも知れない。
著者はフリーについては4つに分類しているが、その中でも特に強調しているのが「フリーミアム」である。どうやらこれはフリーとプレミアムの造語らしく、一般の利用者に対しては無料でソフトウェアやサービスを提供し、一部のコアな人たちにプレミアム・バージョンを販売することによって、その売上で全体を賄うという企業モデルである。
そして、この本を読んでいて面白いのは、筆者がなかなか筆の立つ人であるからである。
「インターネットとは、民主化された生産ツール(コンピュータ)と民主化された流通ツール(ネットワーク)が合体したもので」(231ページ)、「近年の傾向を見ると、テレビの視聴時間はすでにピークを過ぎている。人々は同じ画面でも、消費するだけでなく生産もできるコンピュータの画面を選ぶことが増えているのだ」(250-251ページ)等々、読んでいるとなるほどと頷いてしまう箇所も少なくない。
ともかく、ここで展開されているのは、「無料にすることによって売れる」という逆説が実は紛れもない現実なのであるという主張である。しかし、彼はこう続ける:「フリーは魔法の弾丸ではない。無料で差し出すだけでは金持にはなれない。フリーによって得た評判や注目を、どのように金銭に変えるかを創造的に考えなければならない」(310-311ページ)と。
そして、彼こそはそういうことを最初に創造的に考えた人物であると言って良いのではないだろうか。
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