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Sunday, November 15, 2009

映画『ゼロの焦点』

【11月15日特記】 映画『ゼロの焦点』を観てきた。

別に有名な原作ものが悪いと言うつもりはないのだが、僕はオリジナル脚本で注目されてきた人が文芸大作を撮り始めるとちょっと哀しくなるのである。

森田芳光が文芸ものに手を伸ばした時もちょっと離れたのだが、犬童一心も自主映画時代から観ていた監督だけに森田の時と同じような思いがした。試写会で観た人から「面白くなかった」との評判を聞いていたりもしたのでどうしようかなと思ったのだが、結局観た。

逆に犬童一心監督でなければ決して観なかっただろうと思う。原作は読んでいない。

映画は「戦後」のさまざまな記録映画の再生から始まる。そして舞台は昭和32年。

まず驚いたのはレストランで広末涼子と西島秀俊が見合いをするシーン。2人が窓辺に立って外を眺めながら話す場面で、カメラはまず後方からの2ショットを押さえた後、続いてビルの外からガラス越しにフルショットで2人を捉えているのだが、そのガラスに外のビルのイルミネーションが映っているのである。

外の風景はもちろん今ではなく昭和32年の銀座である。まずレストランの中からその作った風景を見せて、そして今度はそれが逆さに映る窓ガラスを作って見せたのである。なんとも手の込んだ画である。

そして、結婚式での集合写真のシーン。ビカッと光って少しトロッと溶けるフラッシュのどアップ。──なんでもないシーンのように見えて、なんか不安感を煽る印象的な画。

中谷美紀のあえぐ顔のアップと汽車の中で考える広末涼子の顔のアップを同じ画面の右と左にダブらせてから場面転換するところも非常に怖かった。

観ていると割合細かいカットを多用しており、そのひとつひとつが上から押えたり下から仰いだり、横に舐めてみたり、と非常に肌理が細かい。やっぱりちゃんと画作りが分かったチームなんだなあと感心した。脚本もとても巧いと感じた。

「重厚な」という表現がぴったりの映画だった。印象としては非常にクラシック。まさに野村芳太郎ばりの映像と言っても良いのではないかな。

だが、どうなんだろう? 犬童一心が撮るにはあまりにも面白さがないではないか。こういう映画を『ジョゼと虎と魚たち』や『メゾン・ど・ヒミコ』の作者が撮るのはもったいない気さえする。

さらに、上野耕路が音楽を書いているのだが、これがまた重厚なクラシックで、如何にも劇伴と言う感じで、確かに効果的ではあるのだがこちらも同じく面白味がない。どうせ上野がやるのであれば、聴いていて脳が曲がりそうになるような大胆な転調などもほしかったところだと僕は思うのである。

監督自身が述べているように、犯人探しだけでは2時間は持たない(実際少し見てると犯人の目星は付いてくる)。だから、そうではない部分に心血を注いだのは見て取れるのであるが、しかし、いささか長い。重い故になおさら長く感じてしまうのだろう。

そして、重いくせに、不思議に登場人物たちの抑圧された思い、閉塞感との戦い、生き抜く力強さ、絶望感みたいなものが今イチ伝わって来ない。

それは仕方のないことなのかもしれない。映画の作り方が悪いのではなく、今の時代に戦後の十数年を描こうとするのが無理なのかもしれない。だが、いずれにしても描き切れていないのである。

下手すると「風俗嬢だったことがバレるのが嫌だからってあそこまでやるか?」みたいな感想を持たれてしまうのではないか? 今の「風俗嬢」と当時の「パンパン」の根本的な違いを描き切れていないのである。

それは変わってしまった日本が悪いのかもしれない。しかし、描き切れていないのは確かで、そのために残念ながら充分伝わって来ない部分を残してしまったのである。

今の時代から振り返って、もう何十年も日本人の誰ひとり経験していない敗戦とか焼け跡とか占領とか、そしてそういう状況から生まれる複雑な精神の状態を描くには、本当はもっともっと時間がいるのである。だが、そこに分数を割くと他の部分が描けなくなる。

だから結局、戦後のそういう状況や精神状態については観客がちゃんと知っているということをある程度前提にした作りにするしかなかったのである。

そういうものを実体験として持っている世代には通じるかもしれないが、そういうものがない世代にはどうだろう?

僕は実体験こそないけれど、母が吐き捨てるように「パンパンみたいや」などと呟いていたのを聞いたりしているので、それなりの雰囲気は解るつもりではあるが・・・。でも、もっと若い世代には少ししんどい映画なのではないだろうか?

良い映画だとは思う。難を言うなら、そもそも今この小説を映画化しようとすること自体が無謀であったのかもしれない。そのことに対しては「だからこそ、意欲的な試みである」という総括をする人がいるのかもしれないが、僕は少し上滑りしているような印象を受けた。

少し残念である。

★この記事は以下のブログからTBさせていただきました。

soramove

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