『元素生活』寄藤文平(書評)
【10月5日特記】 地球上に100種類以上存在する元素というものを、ひとつひとつ擬人化したイラストで説明しようという野心的(笑)な試みである。あるいは野次馬的な分析と呼んでも良いかもしれない。いずれにしても、よくまあそんなことをやろうと考えたもんだというとんでもない企画である。
ハロゲンだとかアルカリ金属だとか、放射性があるとか磁力があるとか、字や言葉だけで説明されると頭が痛くなりそうなことを、この人はすべての元素を人物になぞらえることによって、言わば漫画にしてしまったわけだ。
ただ、原子量が大きいほど太っているとか、発見された年代が古いほどひげが長く眉毛が濃くなるとか、固体は2本足で立ち液体は下半身が床に溶けだし気体は幽霊みたいに宙に浮いているとか、そこら辺までは解りやすいのだが、なんで窒素族がモヒカン刈りで酸素族は部分禿げで希ガスはアフロヘアーなのかとなってくると些か無理がある。
しかし、無理があるよなあと笑いながら読み進んでいると、なんとなく「こいつら確かにみんなこんな顔かたちや恰好をしてるんじゃないかな」という気がしてくるから不思議だ。いつの間にか妙な愛着が湧いてくるのである。
読み終わる頃には、ひょっとするとこの本の最終目的は元素の説明をすることではなく、元素に愛着を湧かせることではないかと思えてきた。
地球上のすべての元素について、1種類につき最大で2ページ、最小で6分の1ページを費やして説明してあるだけでなく、いろんな切り口からいろんな分析、と言うよりエピソードめいた話がギュッと詰まった本である。
本気で読むべき本なのか、いや、そもそも、本気で書いた本なのか。だいたい帯に「元素なんてどうだっていいじゃん」と書いてあるくらいだから、一体どんな読み方をしたら良いのかよく判らなくなってくる。
でも、読むと楽しい。そして、よく解る、いや、よく解ったような気になる本である。一家に一冊置いてあって決して損はない(笑)
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