ドラマW『誘拐』
【9月5日特記】 録画しておいたドラマW『誘拐』を観た。いやあ、あまりによくできているので驚いた。
主人公の秋月(三上博史)は会社の人事部に所属し、不況の中、先輩のリストラ役をやらされていた。そして、その先輩が妻・娘と一家心中した。その娘は秋月の娘の同級生であり、自分の父親が彼らを心中に追いやったと知ってショックを受けた秋月の娘が今度は発作的に飛び降り自殺してしまう。
妻とも別れ全てを失い、自分も飛び降り自殺しようとしていた秋月だったが、その時に掛かってきた電話をきっかけに、佐山首相(石坂浩二)の孫娘・百合(三吉彩花)の誘拐を綿密に計画し始める。共犯者にはかつて自分がリストラした不良社員・関口純子(中越典子)を選び、500万円で雇い入れる。
そして秋月はまんまと百合を誘拐してしまう。不思議なことに百合に対して顔を隠すことさえしない。
そして、北朝鮮が反対/牽制する中、来日する韓国大統領と友好条約を結ぼうとしている佐山総理に対し、北朝鮮のテロ組織だと思わせる手口で身代金を要求する。
韓国大統領の警護で手いっぱいの荒巻警視正(渡辺いっけい)は兼ねてから良く思っていなかった星野刑事(西島秀俊)に誘拐犯の捜査を押しつけてしまう。
かなり書いてしまったが、こういう入り組んだ筋だ。
原作はベストセラー『交渉人』の著者・五十嵐貴久の同名小説。脚本は『グッドラック』などの寺田敏雄と山村一間。制作は共同テレビ。監督は『アンフェア』などを手掛けた小林義則である。
原作が良いのか脚色が巧いのかは解らないが、脚本としては非常に素晴らしい。長いアバンタイトルをサスペンスタッチ濃く引っ張って、何故どん底だったはずの秋月がこんな冷徹な犯罪者に転じようとしているのかを視聴者に説明しないままぐんぐん話を進めて行く。
そこに警察署内の人間関係、特にノンキャリアである星野刑事の不遇と怒りを絡め合わせて、さらに描き方としては少し単純すぎるきらいもあるが、戯画化された権力者として佐山総理が登場する。
これ以上ストーリーを明かすわけに行かないので歯がゆい思いではあるが、これは人間の描き方においてなかなか痛快なドラマになっている。最後の墓地のシーンは少しくどすぎる気がしたが、まあ、作者としては削れないパートではあるのだろう。
ありきたりなミステリのように、犯罪が起き、犯人と警察の知恵比べがあり、最後に種明かしがあって犯人が逮捕されて終わり、という筋立てにはなっていない。そうなっていないところがミソなのである。
いろんな人間がある種報われる、あるいは救われる展開で終わる。視聴者もまた報われ、あるいは救われることになる。
WOWOW のホームページの「みんなの評価」では平均3.75点(5点満点)とそれほどぱっとしないが、僕はとても良い話だった。
ひっかかるところがあるとすれば、絶望の淵にいた秋月が沈着冷静な頭脳犯へ転身するのが速すぎるのとギャップが大きすぎるということだろう。
三上博史と西島秀俊の好演で、僕はあまり雑音が気にならずに没頭して観たのだけれど・・・。
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