『わたしは、なぜタダで70日間世界一周できたのか?』伊藤春香(書評)
【9月29日特記】 「なんか、とても悔しい。そう、羨ましいんじゃなくて悔しい。この感じ、読んだ人なら解ってくれると思う」──この本を読んでそう言った人がいたけど、まさにそういう感じ。
この本は、当時女子大生だった“はあちゅう”こと伊藤春香が、自らプロモートして獲得したスポンサーからのタイアップによってタダで世界一周をした記録である。
意地悪く書けば、生意気盛りの小娘が大人を籠絡して好き放題の遊びに興じるストーリーであり、そういう意味では読者が反感を抱いても何の不思議もないのだが、残念ながら(?)反感は抱けない。反感を抱けるのはせいぜい最初の20~30ページだ。
はあちゅうのパーソナリティによる部分も大きい。彼女は決して我が強く思い込みの激しい、ありがちな小娘ではない。むしろ自分の臆病な面をしっかりと描いているし、読んでいると意外に古風な面があるのも判る。だが、一方で目的に向かっては揺らぐことなくまっしぐらに突き進んで行く。
この不思議な強さは一体何なんだろうと思う。
しかしながら、僕が読みながら考えていたのは彼女の性格や考え方ややり方の問題ではなく、自分ならどうなのかということだった。
つまり、僕は彼女とは全くタイプの異なる人間だ。だから、この紛れもない成功体験を読んでも、それをそのまま自分に当てはめて真似しようとは思わない。だったら、自分ならどんな風なやり方があるんだろう? 何かを実現するための自分らしいアプローチって何なんだろう、って、そういう風に自分を(しかも、僕みたいな、彼女の父親であっても不思議でない年代の男が、あらためて自分というものを)振り返らせてくれるところがこの本のすごさだと思う。
旅が終わって、当の彼女自身が反省しきりで決して満足していないのも解るし、客観的に見ても決して満点の企画だとは言えないだろう。しかし、二者択一で言えば、これは紛れもない成功体験である。何故ならこの体験が彼女をさらに大きくしていることが手に取るように解るから。
70日間で訪れた14ヶ国の情報も楽しく散りばめられており、単なる旅行記として読むのも面白いだろう。マーケティングの入門書みたいに読むこともできる。
でも、そういう単なる読み方に終わらせない、もっと広がりのある、どうしようもなく不思議な魅力のある本なのである。そこら辺が「なんか、とても悔しい。そう、羨ましいんじゃなくて悔しい」本なのである。この感じ、読んだ人ならきっと解ってくれると思う。
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