『容疑者Xの献身』
【8月23日特記】 一進一退だった風邪の症状がようやく治まって来たので、昨夜はWOWOW から録画してあった映画『容疑者Xの献身』を観た。
テレビドラマの時には一度も観ていなかったのでどうかな、と思ったが、うん、面白かった。さすがフジテレビ。
調べてみると2008年キネ旬ベストテンの38位である。この手の映画としてはなかなか高い評価を得ているのが判る。
脚本は福田靖、撮影は山本英夫、演出はCX社員の西谷弘である。
湯川学(福山雅治)や内海薫(柴咲コウ)をはじめとするレギュラーの人間の説明にそれほど時間を割いている訳でもないのに、TVドラマを見ていなかった人間にもなんとなく彼らのキャラやお互いの人間関係がちゃんと分かる。手際の良い脚本である。
さて、原作は東野圭吾の小説なので、わざわざここで書く必要もないのかもしれないけれど、一応書いておくと倒叙法のミステリである。つまり観客には犯人が誰なのか最初から分かっている。それを天才物理学者・湯川が内海ら警察と協力しながら解いて行く、というスタイルだ。
花岡靖子(松雪泰子)に別れた夫・富樫がいつまでもまとわりつく。ついに自宅までつきとめてやってきた。暴力と暴言に耐えかねた靖子の娘・美里(富樫の娘ではない)が逆上して鈍器で殴りかかったのきっかけとして揉み合いとなり、結局母娘で富樫の首を絞めて殺してしまう。
それをアパートの壁越しに聞いていたのが数学教師の石神(堤真一)で、彼は普段から靖子に好意を抱いていたために部屋に駆けつけて助けを買って出る。そして、その石神が湯川の大学時代の同窓生で、湯川が天才と認める数少ない存在であったことから、その後は湯川と石神の知恵比べという形になって進む──。
前述したとおり、これは倒叙法のミステリなのだが、作者が観客に対して肝心なことを隠したまま進めるので、観ている方はころっと騙されてしまう。これを怒る人もいるのだろうが、僕はこういう風に騙されるのは楽しい。
トリックとしてはよく考えてあるし、人間もちゃんと描けている。何か問題があるとすれば、堤真一があまりにボソボソと喋るので、台詞が聴きとりにくいということくらいだ。もちろんそういう役作りであるので、これは仕方がないと言えば仕方がない(ただ、BGMとのバランスは考えてほしい)。
難を言えば少しケツが重い。謎が解け、犯行の全過程が明らかになってから、ちょっと引っ張り過ぎではないかという気がした。引っ張った結果がなかなかのドラマになっているとも言えるのであるが、もう少しバッサリ行く手もあったかな、と思う。
福山雅治と柴咲コウの2人は、そんな難しい演技を要求されず、しかし観客には確実に高感度を与えられる美味しい役どころだったと思うのだが、堤真一には「ああ、この人、巧い役者だったんだなあ」と改めて感心させられた。
かなり上質のエンタテインメントだった。
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