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Monday, August 03, 2009

電脳あげ足

【8月3日特記】 東京キー局発全国ネットのニュースで、女子アナが「訃報」を「とほう」と読んでしまった。その録画映像が動画投稿サイトに上げられて、5万回以上再生された(当然著作権侵害映像なので、局からの要請によって今はもう削除されている)。

誰でも考えることだが「途方に暮れる」とか「とほほ」などと揶揄するコメントがたくさんつけられた。

僕も最初は笑って見たのだが、同じく放送局に勤務する者として明日は我が身である(もっとも僕はアナウンサーではないが)。次第に少しずつ空恐ろしくなってきた。

投稿映像を見た側に罪はない。いや、「罪はない」などとあまりに脳天気に無罪放免にしてしまうのもどうか(自分も見たから弁護しているだけではないのか)、と言われるのであれば、見てしまうのも仕方がない、と言い直そうか。

どう見てもニュースのスタジオらしきところでカメラ目線で立っている若い女性(女子アナに詳しい人なら、その小さな静止画だけで誰々と名前を言えるのかもしれない)のサムネイルがあり、「とほう」などというタイトルがついていると、ははあ、と、つい再生ボタンを押してしまうのも咎めだてできないのではないだろうか?

それよりも問題は投稿した側である。どうしてこんな悪意に満ちたことをするのだろうか? 今の日本には誰でも良いから機会があったらバッシングしてやろうと普段から構えている奴がたくさんいるということだろうか?

確かに間違えた女子アナも非難されても当然な面はある。そこらへんのお笑いタレントが言ったのではなく局アナの発言であり、しかも、お笑いバラエティ番組ではなく、ニュースである。咎められても仕方のない、許されない状況で間違った日本語を言ってしまったのである。

しかし、昔であれば、当然局内ではボロカスに怒られ、視聴者からも何通か投書や電話が来て、本人も相当落ち込むだろうけれど一応それで終わりだった。それが、全くニュースを見ていなかった人たち、普段TVのニュースなんて見ない人たちも含めて何万人もの眼に触れるべく映像が公開されてしまったのである。これではまるで「さらしもの」ではないか。

多分彼女は長年「とほう」だと信じてきたのだろう。知らなかったり自信がなかったりしたのであれば誰かに聞くか調べるかしたはずである。でも、「とほう」だと信じて疑っていなかったからその通りに読んだのである。

──こういうことって誰にでもあるんじゃないだろうか? もちろん誰にでもあるからと言って、ニュースのアナウンサーに許されることではないのではあるが・・・。

しかし、それにしても、こんな風に「さらし首」にされなければならないようなことなのか?

一体、そこまで彼女を追い詰める必要があったのかどうか? 投稿者はどうしてそこまでやる必要があったのか?

──などと初めは考えていたのである。だが、考えているうちに少し考えが変わって来た。

投稿者は多分悪意を持っていた訳ではないのではなかろうか。恐らく、たまたま録画していたのだ。そして、しめた!と思ったのだろう。この映像を投稿するとものすごいアクセスを集めるぞ、俺はちょっとしたスターかも、と。

きっと自分のIDがついた投稿映像のアクセスカウンタがものすごい数字を刻む様子が眼に浮かんだのである。それは単にそれだけで快感である。友だちに自慢するのはさらに快感だろう。恐らくその女子アナにはなんら悪意はなかったのではないだろうか?

そして、そういう快感を知ってしまった者であれば、次はそういうチャンスを狙って録画スタンバイを続けるかもしれない。ただ、いずれにしても特定の女子アナに悪意を持っているのではないのである。

もちろん、悪意がなければ良いというものではない。自分がそんなことをすると、その女子アナがどこまで追い込まれるかを瞬時に想像する力がないのであれば、それは社会生活を送る資格がないということだ──と、厳しく言えばそういうことになる。

だが、目の前にいくらでも録画できる機械があり、いくらでもDRMを解除する術があり、いくらでも投稿できるサイトがある。そして、そのサイトでアクセスが集中するとサイトのトップに掲載されるという仕様がある。

投稿者に対して一番甘く言うと、そういう一連の仕組みが、こういう心ない行為を許してしまったのである、ということになる。

もちろん、それはあまりに都合の良いこじつけかもしれない。

だが、我々は今、こういうことを防ごうとすると、結局その人の「良心」が自然にブレーキを踏むことを期待するしかないのである。はなはだ心許ない状況ではないか。

昔よりはるかに簡単に「出来心」を成就させてしまう環境が整っているのである。まず、そういう状況であるということを認識しなければならない。

そのことをすっ飛ばして、やれ「心ない投稿者だ」とか「喜んで見てる奴にも責任がある」とか「そもそも間違えた女子アナが悪い」とか「違法投稿を許すサイトの運営に問題がある」とか、そんなことばかり言っていても仕方がない。

僕らは良く考えなければならない。あまり何も考えなくてもいろんなことができてしまう時代になってしまったのだから。

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