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Saturday, July 11, 2009

映画『インスタント沼』

【7月11日特記】 映画『インスタント沼』を観てきた。この監督はあまり好きではないのだが、割合評判が良かったので──。

実は一番印象に残ったのは次から次へと繰り出される麻生久美子の多彩でとんがった衣装だったのだが、映画本編のほうも、果たして三木聡監督・脚本でなければ誰も思いつかないようなゆるくて奇抜で軽快なコメディになっていた。

タイトルのこのアンバランスさ、言葉としての座りの悪さもさることながら、だいたい「インスタント沼」なんてものを思いつくところが発想なり視点なりの独創性である。あらすじ書いても仕方がないのでここには書かない。が、とても面白い。観れば分かる。

そして、テンポが速い。冒頭の昔の8ミリ風の早送り映像もそうだが、そのテンポはそのまま映画の最後までずっと継承される。話はゆるいのにテンポは速いのだ。そして、その辺りのアンバランスがまたなんとなくおかしい。

訳の解らん台詞や仕種や筋だらけなのだが、そんな中にある種ギャグとして放り込まれている「うまく行かないときは水道の蛇口をひねれ!」なんてのがなにげにこの監督らしいメッセージになっていたりするのだ。そういうところを楽しめば良い映画だと思う。

バカやってるのに背景の画がとても綺麗だったりするところもなんとなくおかしい。

僕がこの監督を嫌だなと思ったのは映画『イン・ザ・プール』を観た時のことだった。あの原作をこんな風にしてしまうなんて、ちょっとひどいなあ、と思った。だから暫くは予告編がどんなに面白そうでも彼の映画は見ないことにしていた。

それが、三浦友和とムーンライダーズにつられて『転々』を観た。そこそこ面白かった。今日のこの映画が僕としては3本目になる。

それで、気がついたのだが、この監督は人の弱みとかコンプレックスとかどうしようもない欠点とか、そういうものをあまり描いていない。この映画のパンフのインタビューでは「コンプレックス克服の物語」などと語ってはいるが、しかしそのコンプレックスを深刻には描いていない。

主人公の麻生久美子は「まさにドロ沼。沈みっぱなしのジリ貧OL」ということになっているが、決して自殺を考えたり酒に溺れたりというようなヤバいところギリギリまで行ったりはしていない。

事実失職しても貯金も住むところもあるし友人もいる。追い込まれてもあくまでのほほんと楽天的である。それが良いと言えば良い。

ともかくそういう深刻なところを描かない脚本家であり監督なのである。描けないのかポリシーとして描かないのかは知らない。いずれにしても画面にそういう匂いがしないのである。

もちろん深刻さを描かないコメディがあるのは全然構わない。僕もそういうお気楽なものを見てゲラゲラ笑っている。だけど、ヤバイもの、深刻なもの、痛々しいものを描いていないことが気になる作家とそうでない作家がいる。

僕がこの監督を好きになれないのはやっぱりそういう部分なのだと思う。

ヤバイもの、深刻なもの、痛々しいものをしっかりと描いた上でバカ笑いさせてくれる作家──僕の理想はやっぱりそういう人であり、僕の好みはたとえ失敗してもそういうことにトライしてみる作家なのである。

いや、この映画はよく凝った、なかなか秀逸なコメディだと思う。設定も展開も面白いし、映像が馬鹿にならんくらい見事だし、麻生久美子、風間壮夫、加瀬亮、松坂慶子らの役者たちもそれぞれ秀逸な演技をしている。

ただ、映画は大いに褒めても、少しだけ監督・脚本を貶しておきたいような──僕にはどうしてもそんな気がしてしまうというだけのことだ。

それが好みというもの、相性というものである。

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