『村上春樹の「1Q84」を読み解く』村上春樹研究会(書評)
【7月31日特記】 著者名としては「村上春樹研究会」であるが、実体としては第一部を平居謙(詩人)、第二部を綾野まさる(ノンフィクション作家)、第三部を藤枝光夫(書籍編集者)という3人の作者が分担している。
私としては、この本は第三部から第二部、第一部へと逆の順序で読むことを勧める。
第三部は「『1Q84』を読むためのキーワード」と題された、非常にフラットな資料編になっていてとても読みやすい。資料の選び方として目の付けどころも良い。
それに比べて、第一部は著者の個人的かつ一方的な思い入れである。
この平居という人は良く言えば「アクの強い」著者であり、悪く言えば「低俗な」著者となる。読むほうの印象はその両極端の間で揺れるのではないかと思うのだが、私の感想としては限りなく後者に近い。
少なくとも私は彼のように「この小説の中のこれは一体何を表しているのか」「作者は何を表現するためにこのことを書いたのか」などといちいち考えながら読んだりしない。しかも、その指摘は全般に思いつきの域を出ず、いちいち浅薄で、ちょっと馬鹿らしくさえなってくるのである。
書いていて自ら矛盾を来している部分もあるのでそれを指摘して反論を試みることもできるのだが、スペースのむだなのでやめておく。それをする気にさえならない薄っぺらさだということである。
いちいち「どうだ、見つけたぞ! これが核心だ。遂に村上春樹を読み解いたぞ」みたいな感じでやたら力が入りまくって得意になっているのが見えるところが良くない。
それに比べて第3部の藤枝の態度は「こんな解釈もありますよ」というあくまでひとつの提案というスタンスが見えるし、そういうひとつの見方を提示することを楽しんでいる余裕が感じられる。だからこそ、読みやすいし、楽しいし、ならば第三部から読み始めたほうが良いかも、というのが私の提案である。
第二部は第三部の客観と第一部の主観の中間にあるような内容で、データはデータ、穿った解釈は穿った解釈として、それなりに面白く読める。
「“ハルキワールド”がもっと面白くなるヒントとカギ」というタイトルが示すように、第一部ほど押しつけがましくはなく、少し引いた感じがある。
第三部と第二部を読んでみて面白ければ、1つの解釈として一気に第一部まで読んでみれば良いのではないか。
別に第一部の作者が憎くてこんなことを書いているのではない。こういう風に書いておくことによって、第一部を読んで(私がそうだったように)げっそりする人が減るのではないかという親心(笑)である。
長年の村上春樹の読者はいきなり第一部を読むとやっぱりげっそりする人が多いのではないかなあと私は思うのであるが、人によっては意外に面白く読めるのかもしれない。
やたらと「解釈」をしてみたり、重箱の隅をつついて材料を集めたり、蘊蓄と蘊蓄を縫い合わせて新たな蘊蓄を作り上げたり、そういう読み方が「正しい」読み方だとは決して思わない。でも、ファン、いや、マニアにとっては、それはそれでどうしようもなく「楽しい」読み方であることは間違いない。
第三部から第一部へと逆順で読むと、あんまり腹も立てずに結構楽しく読めるような気がするのだが、どうだろう?
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