映画『ウルトラミラクルラブストーリー』
【6月7日特記】 映画『ウルトラミラクルラブストーリー』を観てきた。話題の新進気鋭、横浜聡子監督の商業映画デビュー作である。
いやあ、こりゃすごいねえ。なんとも形容不可。そこら辺の人にはこんな設定や筋を思いつくのは無理。文学作品でならアリかもしれないが、映像でコレをやってしまうところがすごい!
見終わった途端、隣に座っていた3人組の女性の1人が呟いた。
わっけわっからへん映画や
決して吐き捨てるようにではなく、(多分)半分笑った顔でそう言った。そして、こう続けた。
しかし、あの最後の落ち着けどころが爆笑やなあ
いや、言いたいことは解るが、今これを読んでいる人が誤解しないために書いておくと、これは決して爆笑できるような映画ではないぞ。口あんぐり開けて観ているしかない。
舞台は青森。主人公は水木陽人(「ようじん」と読む。松山ケンイチ)。ばあちゃん(渡辺美佐子)の家の近所に独り住まいしている半人前の農業青年。
で、どう言うんだろ、昔はこういう人たちを全部ひとくくりにして「知恵遅れ」という表現で片づけていたのだが、ともかくネジが何本か外れている。小さい頃からの主治医・三沢(原田芳雄)によると「脳の配線が他の人と違うだけ」とのことだが、幼児よりタチの悪い理解不能な騒ぎ方・遊び方をする。
その近所の幼稚園の先生として神泉町子(麻生久美子)が東京から引っ越してきた。
町子の彼氏だった男は他の女とドライブ中に事故に遭って死んだのだが、その時にちぎれた首の行方がいまだに判らない。町子はそもそもカミサマ(津軽にはそういう人がたくさんいるらしい。イタコではない。藤田弓子)を訪ねて青森に来て、そして住み着いてしまった。
その町子に陽人が恋をする。一緒になりたいと思う。「両想い」になりたいと思う。町子先生に気に入られる脳ミソになろうとする。
そう、これはタイトルの通りラブストーリーなのである。手垢がついた横文字ばかり4つ並べたタイトルは、ともすれば何も感じないうちに通り過ぎてしまうのだが、これはまずラブストーリーであり、その上にミラクルがついて、それを更にウルトラが修飾している。
そう、「奇跡」の上に「超」がつくような話なのである。何しろ陽人は進化するために農薬を浴びるのである。いや、これから見る人のためにそれ以上は書かないが、農薬を浴びたり進化したりするのはこの映画に於いては序の口である。とてもついて行けない。
あり得ないことが起こる──だからと言ってファンタジーでもSFでもない。コメディでさえない。強いて言えばやっぱりラブストーリーなのか。いや、詩だね。一篇の詩。
渡辺美佐子や藤田弓子など、東京から呼んできた俳優の津軽弁は解るのだが、青森出身の松山ケンイチの津軽弁はところどころ意味が取れず、現地でオーディションされた子供や老人の台詞は9割がた理解できない。
でも、監督は「解らなきゃ解らないでいいかな」と思ってるんだろう、きっと。
ストーリーを先読みしようったって全く無理。これは映像の詩である。
キャベツ畑に埋まった陽人に子供が農薬を掛けるシーンとか、夜の道を町子が自転車を押しながら陽人と歩く長い長い長廻しとか、あるいは衝撃のラストシーン(笑)もそうだが、もう、映像の詩としか言いようのないパーツの積算なのである。
観ていてふと、監督の横浜聡子はこの映画で麻生久美子が演じている町子のような人なのではないかと思った。町子はどんな仰天することが起きても尻込みしたり動じたりしない。あらゆる出来事をしっかりと受け止めて、落ち着いて生きている。
とても刺激的で面白い映画だった。
しかし、彼女の今後が楽しみ、というより気懸りである。次もちゃんと撮れるのか、そして、次もちゃんと飽きられずに観てもらえるのか──。
細い綱の上をどちらにも墜ちずに走って渡っているような監督である。恐らくその味こそが横浜聡子の危うい魅力なのだろうと思う。
★この記事は以下のブログからTBさせていただきました。
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