WOWOW『3原色の海』
【5月17日特記】 3月20日に WOWOW で放送された『3原色の海』を漸く観た。ここ数年増えてきた WOWOW のドキュメンタリ。制作はテレビマンユニオンである。
何はともあれ、赤い海・青い海・緑の海の3つの映像は非常にインパクトが強い。
3原色と言えば一般的には我々は「赤青黄」を思い浮かべると思うが、これはインクを重ねて印刷する時の基本3要素である。白い紙とこの3色、及び黒の塗料があればどんな色でも表わすことができる。だから、コンピュータのプリンタに使うインクは最低でも赤青黄(CMY)と黒(B)の4色である。
それに対して、テレビやコンピュータのモニタに映像を映すときの3原色が赤緑青(RGB)である。紙に色を塗る時とは逆に、光は重ねれば重ねるほど明るくなる。RGB の3色の光を目一杯重ねた色が白である。光を全く発しなければ、そこは闇であり、黒くなる。
──というような説明を一切加えずに、赤青緑の3つの海を「3原色の海」と言っているところに少し引っ掛かりを覚えた。
まあ、ただ、そんなことはどうでも良いことで、これらの映像を見ると「世の中には本当にこんな色の海があったのか」と驚いてしまう。そして、その美しさに酔ってしまう。
見ていない人からすれば、「赤い海、緑の海はともかくとして、青い海は当たり前でしょ?」と思うだろうが、これは夜、明かりのないところで舟を漕いだり人が泳いだりして水に圧力をかけると、その周辺の微生物が青く発光するという現象である。
だから、青い海と言っても実は「闇の中の夜光性の青」であり、とても幻想的である。舟が通った跡、泳いでる人の周辺だけが、まるで青い灯が点ったようになる。
でも、一番の驚きは赤い海。これは湾に接する湿原に群生する野草に含まれた色素が溶けだしたもの。浅いところは薄い赤、深く潜るにつれて透明度のない濃い紅になる。
そして、緑の海は浅い水底に群生する海草の色。
赤はプエルトリコ、青と緑はオーストラリア。こんな海をよく見つけてきたものだと驚く。と言うか、この3つの海を見つけた時点で、この企画はほぼ完成なのである。
ただ、番組全体としてはちょっと焦点がぼけた感じ。
それぞれの土地でその海を案内してくれた人物の背景を紹介するのは良いとして、観光ガイドとその娘とのふれあいとか、地元で環境運動に携わる子供たちとか、そういうものを割合大きな要素として入れ込もうとしているところが逆に少し興醒めであったりする。
これほどの自然の奇景に対して人の営みのほうはあまりに凡庸に見えてしまうのである。
坂井真紀のナレーションも中途半端、と言うか、坂井真紀をナレーターに起用したことが中途半端、と言うか、ナレ原が中途半端、と言うか・・・。
ナレーションで親しみ感を出そうとしたんだろうけど、見ていて「多分企画書には『ターゲットはファミリー』なんて書いてあったんだろうなあ」と想像してしまう。
3ヶ所の3人がお互いに電話で「そちらの海はどんな色だい? こちらは緑だ」などと話す演出も不要。あれは単なるワイプの合成であり実際に3人が国際電話をかけたわけではない。もし、本当に電話をかけていたとしても、それは番組スタッフに頼まれてやったことだ。
──ドキュメンタリにおいてやってはいけない手法だと言うのではない。やっても面白くないと言いたいのである。
それから、まるでCMが入るようなタイミングで入ってくる「色のはなし」。絵具工場でのアップに色の蘊蓄をテロップで載せてある。あれも面白いと言えば面白いのだが、ああいうのは本当に提供社がCM枠でやってこそ洒落てるなあと思えるもの。ノーCMの WOWOW でやるのはちょっとわざとらしい。
あれだけの自然のインパクトがあるのだから、もっと重厚にアカデミックに作れば良かったのに、と不思議な気がする。ほとんど視聴率を気にする必要もない WOWOW という舞台で何故こんな中途半端なテーストにしてしまったのかなあ、と惜しい気がする。
そんな訳で録画した映像を保存するのはやめた。もちろん、保存して何度も見る気にはならないにしても一見の価値はある。ちょっと惜しい。
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