『告白』湊かなえ(書評)
【5月27日特記】 最初の章を読み始めてすぐに思ったのは、語り手である中学教師の森口悠子が教室で生徒たちに語りかけているという設定なのに、どうも書き言葉っぽさが抜けていないなあ、ということだった。
若い作家(と言っても彼女の場合はもう30代半ばなのだが)の場合には、どうしてもこんなことが多い。文章が充分こなれていないのである。
ただし、第2章、3章と読み進むと、その語り手は章ごとに変わり、別の登場人物が別の視点から物語を語り直しながら付け加えて行くという形式になっており、なるほどこういう風に非常に工夫の利いた構成ができる作家なのか、と評判になった理由が腑に落ちた。
ただ、いささか陰惨すぎる話である。
2人の生徒によって愛する娘を殺され、一旦は事故として処理されながら後でそのことを知った森口がその2人の生徒に復讐する話である。
第1章は森口が退職する日に、2人の生徒が飲んだ牛乳にエイズ患者の血を混入しておいたと告白するところで終わる。そして、こういうやりきれない話が小説の一番最後までずっと維持されるのである。
ストーリーは良く練れた仕掛けになっているとは言え、いかにも頭で一生懸命考えて作りましたという人工的な感じが否めず、人物の描き方も極めて機械的、直線的、類型的、一面的である。
結局、どうです、よくこんな筋を考えたでしょ?という印象しか残さない。
果たして何が彼女にこういう小説を書かせたのだろう?
何が彼女にこういう人物を描かせたのだろう?
全てがこういう浅薄で単純な連関に絡め取られてしまう社会になってしまっているのだ、という風刺、あるいは警鐘を鳴らしているようなつもりがあってのことなのだろうか?
それとも単にハラハラ感をずっと引っ張れるストーリーを考えたかっただけなのだろうか?
──僕にはそれが見えてこない。
でも、世の中には僕のような引っ掛かりを覚えたりせずに、ああ、面白かったと単純に喜んでいる読者も少なからずいるんだろうな、と思うと、この小説よりもそっちのほうが遥かに恐ろしい気がする。
1作を読んだだけでは、この作家が何を意識して筆を進めたのかが、残念ながら僕にはうまく読み取れなかった。だから、この小説だけで何かを決めつけることはやめたい。この作家について語るのは、別の作品を読んでからにしようと思う。
もっとも、読む気になればの話だが…。
それほど後味の悪い小説である。もし、それを狙って書いたのであれば、なかなか腕の立つ作家である。もし後味の悪さを狙って書いた小説なのであれば、僕はそんなものを読みたくはないけれど。
それでもそれも小説であることに間違いはない。
« きらきら光る硝子坂 | Main | 本が溜まる »
Comments