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Saturday, March 21, 2009

映画『フィッシュストーリー』

【3月21日特記】 映画『フィッシュストーリー』を観てきた。

この手の映画は原作を読んでいるかいないかで判断のポイントや評価が分かれる可能性がある。この文章は原作を読んでいない者によるものだということを最初に断っておこう(だから原作をうまく料理できているかどうかなんて観点では全く書けない)。

で、非常に微妙な映画なのである。「あんまり面白くなかった」と言う人も少なくないのではないだろうか。僕自身も、好き嫌いは別として、「面白かった?」と訊かれて「うん、めちゃくちゃ面白かった」とは答えない。ただ、こんな映画も良いのではないかなと思うのである。

宣伝文句として「あの『アヒルと鴨のコインロッカー』のチームが・・・」と書いてあった。原作:伊坂幸太郎、監督:中村義洋、出演者でも濱田岳がかぶっている。決して「あの『チーム・バチスタ』シリーズの中村義洋監督が・・・」とは書いていない。

そして、確かに『アヒルと鴨のコインロッカー』から『フィッシュストーリー』へと不思議に繋がった感じがあるのである。

『釣りキチ三平』の「あの『おくりびと』の滝田洋二郎監督が・・・」という宣伝文句とは大違いである(笑)。

話は4つの時代が交錯する。

新しいほうから書くと、まず2012年。隕石が地球に衝突して地球が最後の日を迎えようとしている時に平然と昔のレコードをかけて談笑するレコード店主(大森南朋)と客(恩田括)。

僕は最初、この大森南朋が1973年のシーンに出てきたレコード会社の社員プロデューサ役の大森南朋と同一人物だと思っていたのだが、それだとどう考えても計算が合わない。これは1975年の居酒屋のシーンで父親の話を聞いていた大森の息子が成長した姿なのである。

そして、それこそがこの話のミソである。あの時、オムライスを食べながら、息子は背後で交わされていた大人たちの話をじっと聞いていたのである。

それから2つ目の時代が2009年。修学旅行のフェリーで寝過して「乗り越し」てしまい苫小牧まで行く破目になった女子高生・多部未華子。そのフェリーがシージャックされる。そして、銃を持った犯人たちに果敢に素手で立ち向かう「正義の味方」・森山未來。

3つ目の時代は1982年。合コンに行く大学生たち(濱田岳、山中崇、浪岡一喜)。気の弱い濱田は山中にまるで召使みたいな運転手としてこき使われている。その濱田に合コン相手の1人である高橋真唯が意味深な「予言」をする。

最後に一番古い時代が1973年。「早すぎたパンク・バンド」"逆鱗"のメンバーたち(伊藤淳史、高良健吾、渋川清彦、大川内利充)。レコード会社社員の大森南朋にスカウトされてレコード・デビューはしたもののちっとも売れない。今度のアルバムが売れなければ馘になる。

4つの時代の中では、この一番古い時代が映画の核である。彼らの歌う曲名が映画のタイトルになっている「フィッシュストーリー」である。

そして、「こんなに良いバンドなのに、俺たちは馘なのか。こんなに良い歌なのに誰にも届かないのか」と、彼らが空想力たくましく語り始めたのがフィッシュストーリー(英語で「ほら話」の意)であり、その時の冗談話の通りにはならなかったけど、なんか小さなところからどんどん飛躍して次々に繋がって、彼らの思いが無にならずに実って行く──という映画の筋自体がフィッシュストーリーであるという、非常に巧く構成された物語なのである。

この辺は原作の力なんだろうけど、中村義洋という監督は非常に器用でテクニックに長けた人であり、今回は自分で脚本こそ書いていないけど、台詞回しもカメラワークも非常に良い出来に仕上がっている。細かいオカズが効いてるよね。少しだけ例を挙げれば、転がる缶ビールを上から押えた画とか、「ガンダムは5人いるのか」って台詞(世代の違いを微妙にあぶり出している)とか・・・。

特に伊藤淳史の部屋のシーン、居酒屋での会話のシーンがとても自然でリアリティもあり、説得力のある画になっている。

最初見ているとこの4つの時代がどう繋がるのかよく解らないのだが、そのうちに時代をクロス・オーバーして登場する人物も出てきて、とりあえず時間的・空間的には繋がるのだが、意味的な繋がりが見えてくるにはもう少し時間を要する。

そして、最後に一気に畳みかけるように意味的な繋がりを種明かしして行くこの構成は、やっぱり中村監督ならではの見事なものだと思う。

全体としてタイトル通りのほら話である。真剣に考えてそんなに巧く行くもんかい、と思う部分もある。でも、そんな風にならないという保証もない訳だから、ま、ひとつ、ここは気を取り直してやってみようよ、というのがこの映画のメッセージなのである。

軽いけど、とても良いメッセージだと思った。

そして、見終わってからもいろんな思いが湧きあがってくる。例えば、これは、あ、そうか、親と子の物語、もっとしかつめらしく書くと「教育」の話だったんだ、とか・・・。

ともかく深い。深い話だ。そして、拡散して行く。この深さと霧のような広がりが『アヒルと鴨のコインロッカー』に繋がっている。いろんなものが繋がってみて、ああ、いろんなものが繋がってるんだと改めて気づかされる──まったくもって変な表現だが、そんな映画だった。

見終わって時間がたつほど印象が深まってくる。──そういう映画は間違いなく良い映画なのである。これはそういう映画だった。それは決して原作だけの力ではない。紛れもなく映像に結実したものである。

★この記事は以下のブログからTBさせていただきました。

soramove

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「フィッシュストーリー 」★★★☆ 伊藤淳史 、高良健吾 、多部未華子 、 濱田岳 、森山未來 、大森南朋 主演 中村義洋 監督、2009年、112分 「原作は読んでいないが、 幾重にも異なるストーリーが 積み重ねられ、 それがひとつの結末に繋がっていく、 心地良い映像体験を楽しめる」 「正義の味方」になる為に 小さい頃から育てられたコックや、 「歌で世界を変えよう」という 熱い想いのパンクバンドのメンバー。 傍から見たら現実性に乏しいし、 マジ... [Read More]

Tracked on Saturday, March 28, 2009 at 20:45

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