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Sunday, March 01, 2009

映画『愛のむきだし』

【3月1日特記】 映画『愛のむきだし』を観てきた。1日1回の上映ながら非常によく入っている。1時間前で整理券51番。小さな劇場とは言え、十三第七藝術劇場がきっちり満杯になった。生半可な長さではない。237分の超長編映画が斯くの如き満員御礼なのである。

園子温はずっと気になる監督だったのだが観る機会に恵まれず、2006年の1月に漸く『Strange Circus 奇妙なサーカス』を観ることができた。それで、もう2度と観なくても良いかなと思ったのである。

なんか、相性の合わない監督っているでしょう? 特にエロチシズムに対する感性が僕とは違い過ぎる気がした。あと、僕はどうも血は苦手なのだ。

ところが今回2本目の園作品を観て、血については相変わらずなのだが、性については見事に波長が合った。

満島ひかりの惜しみなく見せるパンチラ、いや、その筋の言葉ではこういうのはパンモロと言う。もうそれだけでも観る価値がある。嵐の如きエロチシズムだ。

とんでもない筋である。なんせ4時間もあるのであまり細かく書いていられないが、主人公は高校生のユウ(AAA の西島隆弘)。元からカソリックの信者であったユウの父親テツ(渡部篤郎)は最愛の妻を亡くしてから一念発起して神父になる。ところが、その教会にサオリというふしだらな女(渡辺真起子)が現れてテツは堕落し始める。ところがサオリはテツを捨てて出て行く。

そこからテツの様子がおかしくなり、毎日毎日ユウに懺悔をさせ、「今日は別に悪いことはしなかった」と言うユウを激しく叱責する。ユウは仕方なく懺悔のネタを求めて非行に走り、やがてスカートの中の盗撮師としてその筋では有名な存在になる。

ある日、ユウは街でチンピラに絡まれていたヨーコ(満島ひかり)を助ける。そして、ヨーコにひと目惚れしてしまう。彼女こそは彼が長年探し求めていた"マリア"だった。そして、ヨーコもまたユウに魅かれる。しかし、その時ユウはたまたま女装して"サソリ"になっていたのでその正体が男性であるとは分からず、ヨーコは自分はレズなのかもしれないと思う。

そして、その数日後、サオリがテツの許に戻ってくる。前夫の連れ子であるヨーコを伴って。ユウのほうはそれが先日の少女だと判るが、ヨーコのほうはサソリとユウが同一人物とは分からずに、逆にユウのことをキモイ男だと毛嫌いする。

そこに【ゼロ協会】という新興宗教が絡んできて、その団体の幹部であるコイケ(安藤サクラ)がユウとユウの家族にしつこく付きまとい、サソリになりすましてヨーコにも取り入り、彼ら全員を教団に取り込もうとする。

まだまだ話は続くのだが、ざっとこんな感じの筋。

最初はユウを非行の道に誘い込み、後に盗撮の師匠と仰いで弟子になった3人組が、どんなときにもユウをサポートしていて、この友情が決して壊れないところが不思議に印象に残った。変態と狂信の話に全く別の青春ドラマが移植されたような感じ。

ともかくいろんな要素てんこ盛りでごちゃごちゃな映画なのだが、しかし、怒涛の迫力がある。久しぶりにキタ---(゜∀゜)---!!!!という感じ。今から年末の映画賞が楽しみなくらいである。

パンフレットで轟夕起夫氏が園監督をドン・キホーテに喩えているが、これは全く適切な表現だと思う。また、この映画にカメオ出演している社会学者の宮台真司氏は「性愛と宗教のシーソーゲーム」と書いているが、これもまた見事な整理の仕方である。

園監督は最初にライティングを設定して役者の立ち位置やカメラ位置をセッティングするのをやめて、カメラは役者を追うことに集中することにしたと言う。稽古とテイクを重ねることによって役者の口から台詞が自然に出てくるのだと言う。

まさにその通りである。満島ひかりが下からのクロースアップのワンテイクで、聖書のコリント人への第一の手紙第十三章からの長い長い引用をする(というか、叫ぶ)シーンの何と感動的なことか!

ともかくこの映画では満島ひかりが素晴らしい!

そして、精神を病んでいたユウが正気を取り戻すきっかけとなった、あの小道具の使い方! 本当によく練れた脚本である。

進んで行く筋はハチャメチャなのに、そして観ている最中で何度か眠りに堕ちそうになったというのに、見終わったときに万感胸に迫るものがあるのはどうしてなんだろう?

全てがエンタテインメントに収束する、いや、逆かな、エンタテインメントに拡散してしまう──性欲も変態も純愛も信仰も欺瞞も、痛々しいほどの真摯なエンタテインメントになっている:この逆説的な包含関係!

この映画のタイトルはどうして『愛のむきだし』なんだろう? 『むきだしの愛』なら解るが、『愛のむきだし』では日本語としてちょっと変ではないか?──観る前はそんな風に思っていたのだが、見終わってピンと来た。そう、『唐揚げの鶏』ではなく『鶏の唐揚げ』でなくてはならないのだ。

園監督自身はもっとわかりやすい説明をしているが、それを知りたい人はパンフを買って読むべし。

ともかく怒涛の4時間だった。頭がくらくらするくらい。そして、圧倒的な読後感がある。好き嫌いの分かれる映画だろうとは思うが、僕にはとんでもなく深い、まさに溺れるような名作だと思えた。

★この記事は以下のブログからTBさせていただきました。

Swing des Spoutniks
犬儒派的牧歌
かえるぴょこぴょこ CINEMATIC ODYSSEY

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