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Thursday, March 19, 2009

映画『罪とか罰とか』

【3月19日特記】 映画『罪とか罰とか』を観てきた。

この映画を観たのは、1)タイトルが秀逸だと思ったから、2)KERA 監督の前作『グミ・チョコレート・パイン』がとっても良かったから、である。

上映開始を待っている間に不意に、『グミ・チョコレート・パイン』の上映館でポスターを見ながら「おい、監督外人やんけ!」と叫んでいた少年のことを思い出した。

で、この映画を観て最初に思ったことは、成海璃子はどうしてこんなに太っちゃったんだろ?ということだった。僕は『神童』も『あしたの私の作り方』も観ているけど、はっきり言ってあの頃の彼女と比べると見る影もない。

で、『グミ・チョコレート・パイン』の時に KERA 監督が主演の石田卓也(この映画でもカメオ出演している)に、「それじゃカッコ良すぎる」と言って十何キロだか太らせたという話を思い出して、ひょっとして今回もそういうことか?とパンフを探してみたが、どこにもそういう記述はなかった。

ただ、この太りようが、いかにもイケてない崖っぷちアイドルという感じを非常によく体現していたのは確かである。

そのイケてない崖っぷちアイドルが、万引きの償いに一日警察署長をやらされるという荒唐無稽な設定だが、荒唐無稽でありながら公権力の腐敗を程よく皮肉ったという味わいがしっかり残っている所が、この監督の独特の持ち味なんだと思う。

荒唐無稽はそれに留まらず、警察で出迎えてくれた刑事・永田絢人が成海の元カレで、しかも連続殺人鬼という「癖」を持ってるとか、まあ、書き出すときりがないくらいぶっ飛んだ設定が次々と組み合わされてくる。そう、単に「次々と出てくる」のではなく、まさに「次々と組み合わされてくる」感じである。

しかし、それにしても、映画館で1つ置いて隣の席に座ってた兄ちゃんが笑う笑う。よくもまあ、こんなに笑い転げるもんだ。僕ももちろん声を上げて笑ったところも何箇所かあったが、基本的にはそういう大爆笑よりも、よく効いた皮肉にニンマリしてしまうシーンのほうが多い映画だと思ったんだけど・・・。

時間を前後させながら、最初は関係なさそうに見えた登場人物を相互に繋いで行く脚本は本当によく計算されていて、ロバート・アルトマンみたい、などと言うと大げさかもしれないが、しかしよくできた群像劇だと思う。

そして、冒頭のシーンで出てきた段田安則を、大抵の観客は「主人公ではないにしても重要な役どころ」あるいは「ストーリー全体の狂言回し」だと思うのだが、その段田があっという間に死んでしまってそこからストーリーが始まるというのもめっちゃ面白かった。

そして、その段田が死ぬシーンでの、割れた卵と血が並行して流れて行くシーンとか、そのシーンを最初に見せておいて、後に大倉孝二と山崎一が部屋の中で連れションするシーンで、今度は並行して流れれてくるおしっことして再現させて見せるあたりとか、面白い映像もふんだんにある。

恋人同士である大倉と奥菜恵のシーンでは2人がフレームアウトした後も無人の部屋(の扇風機)を固定カメラで映し続けて、声だけで芝居を続けるシーンなんか、やっぱりとても巧いなあと舌を巻いた。

ラストのパトカーの中から永田が成海を見上げるシーンも極めて印象的なアングルだった。

僕が映画を評価する上でいくつかある大きなポイントの1つとして、「映画にしかできないことをやっているかどうか?」ということがあるのだが、上記のいくつかのシーンなどは、まさに映画でしか描けないものだと言える。

ただ、僕が抱いたのは「映画でしかできないことをやっている」という感じではなく、「演劇ではできなかったことをやっている」という感じだった。これは別に貶している訳ではない(かといって、ことさら褒めている訳でもないが・・・)。

元はと言えばケラリーノ・サンドロヴィッチという人はバンド活動から入った人であって、そこから演劇へ、そして映画へと順番に移ってきた、というか広げてきた人なのである。つまり、この監督は中心に向かって凝縮して行くタイプではなくて、あくまで周縁に向かって拡散して行くタイプなのだなあ、と強く思った。

でたらめのギャグのように見えて結構抑制のきいた風刺であったりする──それは現実をデフォルメするやり方が適当なのだと思う。

最初はコンプレックスがあって自信の持てない3流アイドル、それが突然少し自信を持ったのと引き換えに、「一日」とは言え「署長」の権力を笠に着て私怨を晴らし始めたかと思ったら、最後は罪を罪として正しく認識するという、見方を変えれば言わばまっとうな成長物語なのだ。

そんなことに気づくと、これはナンセンス・ギャグ映画のように見えて、実は人を励ます映画なのだという気がしてくる。単に僕が深読みし過ぎなんだろうか? しかし、そうなると、なおさら隣でゲラゲラ笑っていた兄ちゃんに対して僕は共感が持てないのである。

ま、だけど、単に笑って帰るというのもそれはそれで映画の見方である。これはあまり万人向けの笑いではないので、あのくらいゲラゲラ笑えるのも素敵だなあという気がしたのも事実。

そう、確かにあまり万人向けの映画ではないのかもしれない。でも、監督の技量、と言うか、懐の広さをしっかりと感じさせる映画であった。

★この記事は以下のブログからTBさせていただきました。

新!やさぐれ日記
アロハ坊主の日がな一日

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