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Sunday, February 15, 2009

映画『大阪ハムレット』

【2月15日特記】 映画『大阪ハムレット』を観てきた。

聞いたこともない監督だし観る気もなかったのだが、知り合いの関東在住の関西人が異口同音に褒めているのを読んだり聞いたりしたものだから観ておこうという気になった。

主演の松坂慶子をはじめ関西ネイティブでない役者が何人が出ていて、彼らが関西正調でないアクセントで喋っているのが気にならないと言うと嘘になるが、それほどでもなかったのも確か。

初っ端から、松坂の亭主・間寛平が死んで、その葬式の席で集まった人たちが故人を肴に冗談言って笑い転げているシーンだ。大阪のおばちゃんらしい感じが大変良く出ている。僕の高校の同窓生が集まると既にこんな感じになっている。

母/未亡人の房子(松坂慶子)と子供たち3人の家に、葬式の直後から父の弟と名乗る(しかし子供たちは一度も会ったことがない)男・孝則(岸部一徳)が転がり込んできて3人の子供たちとの微妙な関係が始まる。

と言っても、子供たちとの間に軋轢が生ずる訳ではない。この孝則という男、神経が相当細やかで遠慮深い。

自ら「おっちゃん」と名乗り、家族にパチモンのペアルックTシャツなど買ってくる。風呂上りの次男にバナナジュースを作ってやる。三男が落ち込んだら一緒に風呂に入って勇気づけてやる。すると逆に「おっちゃん、ヘタレのくせにええこと言うやん」と言われる、等々。

中3の長男・政司(久野雅弘)は街で会った女子大生・由加(加藤夏希)にひと目ぼれ。生来の老け顔から大学生と思われて、年を隠したままつき合っている。親に嘘ついてお泊りに行ったりもする。逆にファーザー・コンプレックスの由加のほうは政司に「父親になってほしい」などと訳の分からんことを言ってくる。

次男の行雄(森田直幸)は同じく中学生だが、兄と違ってケンカに明け暮れるヤンキー。その行雄がひょんなことからシェイクスピアの『ハムレット』を読み始める。そのエピソードがこの物語のタイトルであり構成上の背骨になっているところが非常に面白い。

そして三男の宏基(大塚智哉)はなんと女の子になりたい。小学校のクラスでそれを言ったら笑い物になったが、「僕は真剣なので笑わないでください」と返す。その宏基が学芸会のミュージカルでシンデレラを演じることになった。

──とてもよくできたストーリーで、とてもよく書けた脚本である。演じている役者たちがものすごく良い。

ただし、やや、良い人ばかりが出て来すぎだという気はする。確かに宏基を「女男」と呼んでいじめる小学生たちは登場するのだが、「女の子になりたい」と聞いて母親も叔母(本上まなみ)も祖母(白川和子)も兄弟たちも、誰も怒ったり気持ち悪がったりしない。それどころか皆で宏基を勇気づけようとする。

現実はもっと悪意に満ちている。ただ、勇気をもらえるのであれば、こういう映画も良いとは思う。

昨今の文法からするとちょっとカット変わりが遅いような気はする。台詞がかぶっているわけでもないのに、1秒近く引っ張ってから次のカットに移るような編集が多いように思った。解りやすく言えば「まったりした作り」ということだ。カメラがゆっくり引いたりする画作りも好きなようだ。

ただ、終わり近くのクライマックスではカメラワークに急に動きが出てくる。政司が由加を追って岸里玉手の駅まで走る。行雄が大阪弁のハムレットを口ずさみながら土手を走る。──そう、クライマックスでは登場人物が走るという常套手段だ。

そして、由加を見送った政司が、ケンカが終わった行雄が、ともに宏基の学芸会に駆けつける。良い締め方だ。

僕は常々、他人の多様性に対してどれだけ寛容であれるかが社会の成熟度を測る尺度だと思っている。これは見事に寛容な人たちのドラマであった。

重ねて書くけれど、実際の世の中は異質のものに対してもっともっと不寛容で、遥かに悪意に満ちている。だからこそ、こういう家族がいたら良いなあ、と勇気づけられる映画になった。

次の作品も見てみたいという監督ではないが、この映画は大変良かったと思う。

★この記事は以下のブログからTBさせていただきました。

アロハ坊主の日がな一日

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