映画『少年メリケンサック』
【2月14日特記】 映画『少年メリケンサック』を観てきた。初日の土曜日(しかも「シネマズデイ」で入場料1,000円だった)とは言えよく入っている。宮藤官九郎のファンか宮﨑あおいのファンか。
映画のほうは宮藤官九郎と宮﨑あおいががっちりと歯車が噛み合った見事な出来で、宮藤ファンも宮﨑ファンも大満足ではないだろうか。いやぁ、ホントに面白かった! 諸手を挙げて、両の手離して大喜び!!!
宮藤の監督第1作『真夜中の弥次さん喜多さん』は非常に荒唐無稽な時代設定だった。なにせ、江戸の長屋を出発した弥次さんと喜多さんがバイクで高速をぶっ飛ばすような話である。
それに比べると今回は、ネットで見つけたカッコいいパンクバンドをスカウトに行ったら、なんとその映像は25年前の解散ライブのもので、そこにいたのは見る影もないオッサン連中だった、という幾分ありそうな、あっても不思議ではない設定である。
で、このパンクバンド「少年メリケンサック」の配役が見事に嵌っている。
かつては「高円寺のシド・ヴィシャス」を名乗りながら、今では昼間から立ち飲み屋で酔いつぶれてヨレヨレになっている、半ばホームレスみたいな風貌と体臭の元ベーシスト・アキオに佐藤浩市。
アキオと果てしない確執を繰り広げる実の弟で、今は牧場で牛の世話をして牛糞だらけになっている元ギタリスト・ハルオに木村祐一。
解散ライブの舞台上での乱闘で負傷して重度の障害が残り、今やまともに歩くこともまともに喋ることもできない元ボーカリスト・ジミーに田口トモロヲ(ほとんど喋らずに、かなり爆笑もののシーンが満載なのだが、このネタはTVではやれんぞ)。
昔通りのモヒカン刈りにしてスタジオに現れ、「痔の手術をしたばかりなので、立って叩いてもいいですか?」と言う元ドラマーのヤングに三宅弘城。この痔のエピソードは三宅が宮藤官九郎と組んでいるパンクバンド「グループ魂」での実話だと言うから笑える。
そして、彼らを「発掘」したのがきっかけで全国ツアーのプロデューサまでやらされる破目になったレコード会社の契約社員・かんなが宮﨑あおいだ。(宮崎あおい)
今までに果たして宮﨑あおいがこれほど弾けた映画はあっただろうか?
考えてみると彼女の出演映画にはコメディらしいコメディもなかったのだが、この映画でのコメディエンヌぶりは本当に見事だ。野太い声で怒鳴り、猫なで声で彼氏に甘える。ちょっと大げさなのだが、そう、この映画ではそれくらい大げさで良いのである。まさに弾け飛んだ感じが出ている。
TVの時代劇みたいなつまんねー仕事してたのが、漸く映画に帰ってきてくれたか。宮﨑あおいファンには堪らん、彼女の魅力全開の映画となった。
そして、かんなの彼氏で、シンガー・ソングライターを志して軟弱な歌ばかり歌ってる軟弱な男・マサルに勝地涼。──『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』のオカマの兄ちゃん役も印象深かったが、この役者、こういう役をやらせると本当に巧い!
他にはレコード会社社長にユースケ・サンタマリア、少年メリケンサックのマネージャにピエール瀧など。
田口、ユースケ、ピエールの他にもアナーキーの仲野など元ミュージシャンがたくさん出演しているところに、なんか音楽に対する真面目で切実で、思い入れの深いものを感じさせてくれるような気がしてならない。監督・脚本の宮藤官九郎自身がパンクバンドをやっているということも大きな要素なのだろう。
で、その脚本なのだが、見事に計算しつくされた出来である。
勝地涼の歌う歌詞とドラマの進行をシンクロさせたり、若いころのアキオとハルオの練習時のエピソードをクライマックスのシーンに見事にかぶせてきたり(なるほど、それはこれの布石だったのか!)。こういうのを「しっかりと作り込んだ本」と言うのである。
ドラマの冒頭は宮﨑とユースケの2人に芝居の"間"で台詞のやり取りをさせていたのでちょっと先行きを危ぶんで見ていたのだが、その後はちゃんと映画の特性を活かしてきた。
舞台(芝居)の弱点は、(照明である程度の誘導はできるにしても)観客がどこを見ているか分からない、つまりこちらの見せたいものを確実に見せたいタイミングで見せるのが難しいということだ。
映像の場合は観てほしいものだけを映し、都合が悪くなれば一旦ほかのものを映しておいて、笑いを取れる"間"でカメラを戻してくれば良い。そういうギャグもたくさんあった。
ともかく笑って笑って、時々結構胸に響くところもあったりして、見終わってからは脚本の巧さを反芻して舌を巻く──いやいや、本当に楽しませてもらった。
でも、こういうネタってすごく若い人たちにはまだ無理かもしれない。考えてみれば、かつて若者の教祖的な存在であった宮藤官九郎が、おっちゃんたちのための脚本を書くようになってきたということだね。
おっちゃんは嬉しいよ。んで、おっちゃんは宮﨑あおいのファンなので、なおさら嬉しかったよ。僕としてはかなり高い評価を与えられる映画だった。
★この記事は以下のブログからTBさせていただきました。
Comments