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Monday, January 26, 2009

梅干しとヒジキ

【1月26日特記】 1月16日に子供のころの食べ物の思い出の話を書いて、同じような話を思い出した。それで、夫婦で話をしていたら、妻もまた似たような話をしてくれた。

そういうこともあって、またここに書くことにした。1月16日に書いたのは嫌いだった食べ物の話。今日書くのは好きだった食べ物の話。ちょっと長くなるけど、暇があるなら読んで行って下さい。


最初に前提となる事実を2つ。

僕は幼稚園時代は割合ふっくらとしていたのだが、小学校に上がって背が伸び出すと横幅がついて行かず、結構ガリガリの少年になった──それがひとつ目の事実。そして、僕は食べ物の好き嫌いが多い少年だった──それがもうひとつの事実。

ある日、僕の家だったか親戚の家だったか憶えていないのだが、法事があって大勢の親戚が集まる機会があった。僕も子供なりの正装をさせられて、多くの大人たちに混じって広い座敷で食事をしたのである。

そんな時、僕を取り囲んでいた親戚のうちのひとりのおばちゃんが、僕に「食べ物では何が好きや?」と訊いてきた。大人が子供によくする質問である。

僕は少し考えて「梅干し」と答えた。いや、あるいは「紫蘇」と答えたのかもしれない。その辺の記憶は明確ではないのだが、僕が「しそ梅」が好きだったのは間違いない。

そうすると、その親戚のおばちゃんは「うめぼしーっ!?」と声を裏返して驚嘆し、そしてこう付け加えたのである。

「そんなもん好きやから、いつまでたってもガリガリやねん!」

「何が好きか?」と訊かれて好きな食べ物を答えただけなのに、この扱いはひどいと思いませんか?

もちろん、彼女の発言の裏側には僕が好き嫌いが激しいという事実がある。それを踏まえているからこそ、こういう発言が出てきたのである。しかし、ここには明らかに飛躍があり、論理の破綻がある。

梅干し以外はほとんど何も食べないというのであれば、ガリガリになっても仕方がない。でも、梅干しを好きなことが直接ガリガリであることには繋がらないはずだ。

今ならそんな風に論駁もするが、小学生低学年の僕にはそんな能力も発想もなかった。で、どうしたかと言えば、ひたすら傷ついた。深く傷ついた。今でも思い出すと胸がザワザワするくらい、それは軽微なものかもしれないが明確にトラウマになった。

僕は子供にそんなことを言う大人にはならないでおこう、と、これは後年になってから固く決意したのだった。


妻が小学校低学年の時に「外国人に紹介したい日本の食べ物の絵を描きなさい」という宿題が出た。そして、その宿題は母親参観日に一斉に披露されることになった。

妻は何を書いたら良いかといろいろ考えたのだけれどあまり浮かんで来ず、結局自分が大好きだったヒジキの煮物の絵を描いた。

参観に来たお母さんはそれを見て随分恥ずかしがった。

「あんた、なんでヒジキの絵なんか描くのよ。お寿司とかてんぷらとかうな丼とか、他にもいろいろあるでしょう」

そう言われて妻は、「あ、なるほど、そういうのを書けば良かったのか」と心の底から感心した。特に傷ついたという訳ではなかった。

でも、これもまたひどい話だと僕は思う。不用意な親の発言だと思う。傷つかなくて本当に良かったなあと思う。

考えてみれば、お寿司もてんぷらもうな丼も、少なくとも当時は「ご馳走」の類である。他の子供たちがそんな絵を描いているのに、妻だけが違うのはまるで普段からそういうご馳走を食べさせてもらってないように見える、という風に親にありがちな見栄を張ったのかもしれない。

いや、それよりも、ヒジキは色が色だけに、妻の描いた絵はほぼ全面黒いものがぐちゃぐちゃっとなった貧乏くさい絵で、それをお母さんは恥ずかしがったのかもしれない。

僕がその話を聞いて真っ先に思ったのは、他の子たちが"料理・献立"の名前を挙げているのに対して、妻がヒジキという"素材"を取り上げたのはとても非凡な視点だということだ。


子供たちの周りに必要なのは、本当はそういう発想をして、そういう眼で子供たちを見てやれる大人なのではないかと思う。

もちろん、そういう大人の不在が、僕のような大人を育てたのかもしれないが。

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