餅は餅屋
【1月24日特記】 半月遅れで『日経パソコン』1/12号を読んでいたら、「Excel 活用の新常識」という特集記事があった。曰く、
文書作成に作図、データベース管理まで、丸ごと Excel でこなすのが“2009年流”だ。文書作成では、Word より Excel を使う方が簡単という場面は多い。作図やデータ管理も同じだ。
はあ。
個人がアプリケーションをどれほど我流の使い方をするのも勝手だし、むしろ個人個人の得手不得手や感覚の違いに合せた創意工夫だと言えるが、『日経パソコン』のような老舗のPC雑誌が自らこんな邪道の使い方を推奨するのは如何なものか。
僕にはどうも性に合わない。
文書作成では、Word より Excel を使う方が簡単? ホントにそうだろうか?
中途半端な文書を作りたいのならそれもOKだろう。だが、Excel は本来文書作成を目的として作られたアプリケーションではなく、文書作成用には同じ Microsoft という会社から Word というアプリケーションが発売されている。そこにはちゃんと意味があるのである。
もちろん、そんなに Excel が好きなら Excel で(罫線を使わない)文書を作ってくれて構わない。ただし、ボロが出ないように作ってほしい。
Excel は Word と違って、作成しているときの画面と紙に印刷したのものが同じではないという欠点がある。ファイルを作っているときにはちゃんとセル内いっぱいにテキストが収まっているように見えても、不注意に印刷するとセル、あるいは行の右端が切れていたりする。
そういうプリントアウトを見ると、「ああ、馬鹿が Excel で文章を打ってる」と言いたくなるのである。Excel で文書を作ったことを非難しているのではない。Excel の短所を把握した上でしかるべき修正をすることに頭が回らない馬鹿が作ったことを嘆いているのである。
表形式のものならいざ知らず、一般文書を Excel で作るとなると、こんな風に余計なことに気を使わなければならないことが多い。
長い文章を打つ際には(Word と違って勝手に改行してくれないので)印刷のときに尻切れにならないように自分で注意深く改行をして行く必要がある。それも見た目セル幅ぎりぎりまで打って改行していると、印刷したときに必ず尻切れになっている。少し早目の改行が要求されるのである。
で、Excel で改行するとなると通常は文字通り行を変えて、つまり、下の行の新しいセルに改行後の文字を書くことになる。ところが、後でこの長い文章を書き直す必要が出てきたときには、全ての改行ポイントを設定し直す必要があるのである。カット&ペーストの嵐。
それが嫌な場合は、大きなセルを作って、「セルの書式設定」で「折り返して全体を表示する」を選ぶ。これはこれでOKだ。ただし、あくまでそのセルの中での話だ。
Excel で文章を書く場合には改行ピッチ、つまり行間の高さなどを設定するのが難しい。セルの高さを変えることによってそのセルの中での体裁はなんとかついても、隣のセルや上下のセルとの間で妙にくっついた感じになってしまうのである。
そういうことを考えるなら、Word ではなく Excel で文書作成するよりも、HTML で文書作成するほうが遥かにお勧めである。何故なら HTML ならそれぞれのボックスの margin, border, padding を自由自在に設定できるから。
この『日経パソコン』の記事には Excel だと「両端揃え」や「中央揃え」が簡単にできるなどと誇らしく書いてあるが、そんなことはもちろん Word にもできる。表ではなく一般文書を作る上では、Excel にできるたいていのことは Word にもできるのである。
「Excel ならこんなことができる」と書いた記事を一生懸命読んでそれを憶えるくらいなら、Word でのやり方を憶えたほうが早いし賢いと思う──それが僕の考えである。もちろん「それでも俺は Excel のほうが性に合ってる」という人は Excel でやれば良い。
ウチの会社にはどんな表でも Word で作ってくる部長がいる(Word でも簡単な数式なら設定できる、つまり Word の表でも集計できる、ということをご存じだろうか?)。しかも、彼が作った表にはどこにもボロが出ていない。これは尊敬に値すると僕は思っている。人はそれぞれのやり方で熟達して行けばそれで良い。
問題は『日経パソコン』がこういう異端の使い方を万人に勧めているということだ。多くの読者に間違った印象を与えてしまう恐れがある。
Microsoft のアプリケーションは全般にあまりとっつきの良い代物ではない。Word も然りだ。ただ、そんなに難しい代物でもないのである。
Word での機能や使い方を憶えられない人に、「それなら Excel のこの機能を使えば良いよ」と言うのはどうだろう? Word の機能や使い方をマスターできないような人には、それに代わる Excel の機能や使い方を憶えるのも無理だと思う。それに、さっきも書いたように、文書作成を Excel で代用しようとした時のほうが、気をつけるべき点が遥かに多くなってしまうのである。
Word のインデントや箇条書きなどが却々思い通りにできないからと言って敬遠する人が多いのだが、Word というアプリは(もちろん文字ごとでも行ごとでも書式は変えられるが)基本的には「段落」というものを単位にして書式設定することを前提としていることを銘記すべきである。
だから、段落とは何かということをしっかり頭に入れて、ここでは改行して新たな段落に移るのか、それとも段落を変えずに改行だけするのか、といったことを常に意識をして文章を書くようにすると、後々の成形がやりやすくなる。
それから、これはあくまで僕のやり方だが、頭の中に余程はっきりとその文書の完成図(書式とレイアウト情報)が見えている場合を除いて、文書の成形は後回しにする。
すなわち、まずはテキストを平打ちする。途中でフォントも変えない、左右寄せや中央揃えなどもしない。全ての文は左端から始まる。箇条書き番号も打たないし、箇条書きの設定もしない。ただ改行するだけ。
そして、全てを書き終わってから、文章の成形に取り掛かる。段落ごとに書式を設定して行くのである。そうすると非常に簡単にできる(と僕は感じる)。
もちろん1段落書くごとに書式やレイアウトを確定し、後段でも同じ書式が使えるように書式に名前を付けて保存しておいて、それを呼び出したり作り替えたりしながら文章を書いてい行くという手もある。
が、僕はそういうやり方を却って面倒くさいと感じるのでやらない。この辺は趣味・感覚の違いである。
人にはいろんな趣味や感覚がある。最大限それを尊重しようという気はある。ただ、Excel での文書作成を他人に勧めようとする感覚は、僕には全く理解できない。
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