『πとeの話』YEO・エイドリアン(書評)
【12月4日特記】 中学・高校の数学で最初にどう習ったかを思い出してほしい。
- πは円周率、つまり円周が直径の何倍かを表す数だと習った。
- eは自然対数の底であり、y=a^x の導関数が自分自身となる場合が a=e であった。
- そしてiは虚数、つまり2乗すると-1になるという不思議な数だった。
どう考えてもこれら3つが関係あるとは思えない。なのにオイラーの恒等式によると e^iπ+1=0 なのである。
数学の世界にはそういう不思議な公式が山ほどあって、そういう美しい公式を次々に羅列したのがこの本である。そして前半でのそういう公式/等式の紹介に続いて、後半ではその証明がこれまた順に羅列されている。
ただ残念なことに、この本は全体としてはそういう単なる羅列であって、読み物にはなっていない。
だから、例えば『博士の愛した数式』を読んでとても心魅かれた人がその数学面を深めるための更なる読み物としてこの本を取ったのであれば、その人は少しがっかりするかもしれない。そこには文章としての面白さはほとんど期待できないからである。
でも、それにしてもよくもまあここまで集めたもんだ、と言うか、こんなに存在するもんだと感心するくらい、これでもかこれでもかと並べられた美しいライプニッツ-グレゴリー級数やマクローリン級数の数々を見ているだけでもやっぱり胸がときめいてくるのも事実である。
特に私が一番驚いたのはiのi乗は実数の無限数であるということである。こういう不思議にはただただため息が出てしまう。
そもそも数学嫌いに読ませようとした本なので、最後の章である「必ずしも容易ではない証明」以外は決して難しくない(もっとも、この「必ずしも容易ではない」という表現だけはちょっと控え目すぎやしないか、と腹が立つほどだが・・・)。
ただ、この本を出版した人間が勘違いしているところが1つあって、それは本文に入るまでの序文やら緒言やらが長すぎるということだ。
延々24頁を読み終えなければ本文に入れないのである。偉い学者たちが寄ってたかって冒頭にこんな文章を寄せる必要があったのだろうか。偉い学者が褒めているから読もうなんて読者はいないはずだ。
数学に興味があって数学が好きな人間なら間違いなくこの24頁の間に焦れてしまうだろうし、数学嫌いに対しては最初にこんな御託を並べるよりも、まず美しい級数を見せつけてやることこそが必要だったのではないだろうか?
Comments