映画『ザ・ローリング・ストーンズ シャイン・ア・ライト』
【12月6日特記】 映画『ザ・ローリング・ストーンズ シャイン・ア・ライト』を観てきた。おっさん独り、という客が多い。たまに爺さん独り、も。
冒頭から監督のマーティン・スコセッシが映っていて、これは単にストーンズのライブのドキュメンタリ映画なのではなく、ストーンズをフィルムに収めようとするスコセッシとストーンズのせめぎ合いの記録にもなっている2重構造の映画だと知る。
模型を使った舞台セットのプランの説明を受けてミック・ジャガーが不機嫌そうに「全然分からない」と言う。これは自分の希望したセットではなく、マーティン・スコセッシが希望した撮影用のセットではないかと苛立つ。
一方、マーティンのほうは「いつまでたってもセットリストを貰えない」と苛立つ。曲名が判らないとカット割りを決められないのである。
こうした緊張感を孕んだオープニングであったが、その後は概ね2006/10/29と11/1にNYのビーコン・シアターで行われたライブの映像が続く。時々挿入されるのは舞台裏のスコセッシやスタッフの姿ではなく、過去のストーンズのインタビュー映像である。
しかし凄いよね。メンバーはみんな、どうみても爺さんだ。特にキース・リチャーズは汚くて、どっから見てもこりゃホームレスでしょう。前からこんな爺さん歩いてきたら除けるよ、間違いなく。1人だけ髪を刈り込んだチャーリー・ワッツが妙に上品で、こんな爺さん、母が入っている老人ホームにもいそうな感じだ。
この時チャーリー・ワッツは65歳。63歳のミックがあんだけ踊り狂って歌いまくるのも凄いけど、日本なら年金をもらえる年齢のチャーリーが2~3時間のライブを通してドラムを叩いているのが凄いと思う。
で、早くも1曲目の Jumpin' Jack Flash から目頭が熱くなる。ここには「不易」の最たるものがある。
ストーンズの秀でた点は、同じようなロックンロールとブルーズばかりのようでありながら、イントロの最初の1小節(それも大抵はギターのリフ)を聴いただけでどの曲か即座に判るということである。
ジャッジャーンで、あ、やっぱり1曲目は Jumpin' Jack Flash か!
来たっ、これは Tumbling Dice だ!
おおお、出たっ、Sympathy For The Devil !
おっと、これは Start Me Up だ!
やっぱり来たっ、Brown Sugar!
ジャッジャーン、と、これは Satisfaction!
気がついたら観ている自分の体も揺れていて、サビは(声にこそ出さないが)ミックと一緒に歌ってて、もう、目頭も茶柱もみんな熱くなる。
音が良いのよ。昨今、大きなアリーナでのライブなんかに行っても割れた轟音聴かされるだけでしょ? それがこの映画では本当にいい感じのミックスになってる。
1つ1つの楽器がクリア。キースとロニーのオブリガートやフィルインも大音響に紛れずにちゃんと聞こえる。ピアノの音が横からビビッドに入ってくる。ドラムスもベースもコーラスもホーン・セクションも全ての音をちゃんと聞き分けられるし、全ての楽器がうまく混ざって聞こえる。
そして、映像があるために、特定の楽器や奏者をアップにする時には少しその楽器の音量を上げるのだが、これがまた非常に程よい。
僕はストーンズのギタリストと言えばやっぱりキース・リチャーズで、ロン・ウッドと言えばまだなんかフェイセズのギタリストという印象が強いのだが、まるで結成当時からのツイン・リードみたいにこの2人のギタリストが巧く機能しているのに驚いた。調べてみると、彼が加入してからもう30年も経ってるんだもんね。
時々ミックとゲストを加えてギターが4本になったりするのだけれど、そんなもんお構いなし(笑)──この自由さ! そして、音的にもぶつからずにちゃんと楽しく機能している。まさに I know it's only rock'n'roll, but I like it! って感じだ(この曲は演らなかったけど)。
で、ベーシストって誰だっけ、と思ったら、メンバーにはいなくて可愛い顔の黒人の兄ちゃんが弾いてた。ビル・ワイマンって死んだんだっけ?
ともかくもう後半は完全に没我の境地で聴き入ってしまった。3人のゲストもなかなか素晴らしかった。
カメラは18台だったらしい。台数としてはTVのナイター中継並みだが、驚いたのは動いているのがフィルム・カメラだと判ったから。
非常に細かくカットが変わる。たまに楽器を弾く手許のアップもほしかったが、不満はそれだけ。そして、18台もあるカメラがめったに映り込んでいないのに驚く。いや、映り込んでいたけど気がつかなかっただけかもしれない。パンフによると、演奏の邪魔にならないように極力カメラの気配を消したと書いてある。
そして、いつしかライブもラストに(実際には2日間の映像を編集してあるのだが)。Start Me Up で終わって、アンコールのラストは Satisfaction。
で、再びストーンズを追うカメラに指示を出すスコセッシ登場──このシーンを見ていると、なんだかスコセッシはえらく芝居がかった演技で、撮る側の苦闘を映し出すというよりも、なーんだ結構楽しんでやってたんじゃん、という感じ。
スコセッシの映画を映画館で見るのは『タクシー・ドライバー』以来31年ぶりだが、ザ・バンドの『ラスト・ワルツ』は WOWOW で観た。あれも異様に面白い音楽ドキュメンタリだった。
さて、ライブは終わって映画も終わりというところだが、曲がかかってるからブラックベースの字幕が全部終わるまで席に座ったまま。館内が明るくなって、僕らは名残惜しく席を立つのであった。
重ねて書くけど、「不易」の最たるものがここにあった。ストーンズというバンドは血沸き肉躍る不易である。
★この記事は以下のブログからTBさせていただきました。
Comments
こんばんは。
茶柱も熱く・・・?それはそうとして、ベースはダリル・ジョーンズという人でビルの脱退からずっとサポートメンバーとして参加しているようです。ビル・ワイマンはまだご健在みたいですよ。ビル・ワイマンといえば、高校時代に東京ドームのライブ映像を見たとき、ミック・ジャガーに肩を掴まれながらもすごくつまらなさそうな顔で黙々と演奏していたのがいまだ印象に残っています。
Posted by: 狗山椀太郎 | Monday, December 08, 2008 23:20
> 狗山さん
いつもどうも。そうですか、ビル・ワイマンは死んだんじゃなくて脱退してたんですか。情報ありがとうございました。
Posted by: yama_eigh | Tuesday, December 09, 2008 09:55