映画『ハッピーフライト』
【11月16日特記】 映画『ハッピーフライト』を観てきた。『アドレナリンドライブ』、『ウォーターボーイズ』、『スウィングガールズ』に続く矢口史靖監督の新作。この面白さはさすがに矢口監督だと思う。
最初はハリウッドの『エアポート』シリーズのような飛行機パニックものを撮ろうとしたらしい。しかし、その準備段階で100人以上の航空業界関係者にインタビューするうちに、「これをこのままやったほうが面白い」と翻意したらしい。と、言いながら当初からあったパニックものの要素もちゃんと残してある。
この監督は根っからの「観察の人」なんだろうなあと思う。凡人には持ちえない鋭い観察眼でもって取材した話をそのまま映画にアレンジしてしまえるような男なのだろう。しかも、映画の筋を運ぶためにリアリティを歪めたりしていない。取材で得た知識をふんだんに盛りつけて、素材の味をそのまま活かして見事な料理を作っている感じ。
今までの映画でもシンクロナイズドスイミングとかブラスバンドとか、我々があまり細部を知らないところを素材にとって、その目新しさを小出しにしながら自由自在に物語を構築してきた感があるが、今回もフライトの蘊蓄を程よく散りばめながら、非常にスムーズなストーリーを展開している。
そして、本物のジャンボジェットを使っていることによって、地上での航空機のアップなどに圧倒的な迫力が出ていて、非常に功を奏していると感じた。
いや、指摘するとしたら、やっぱり一番は脚本の巧さなのかな。
筋が巧い。途中で飽きさせないし、気を逸らせない。半日という短い時間の物語なのに、その中にちゃんと登場人物の成長を織り込んでいるところも偉い。
台詞も巧い。時任を単なる強面の鬼教官に終わらせずに「その和食弁当美味いか?」などという台詞を吐かせて非常に人間味のあるキャラクターに仕立て上げている。綾瀬はるかの最後の台詞は「厳しいわよ」ではなく、小さい「っ」を入れて「きっびしいわよー」だというような細やかさ。
パンフを読むと、この監督は当て書きなどせずにまず自由に人物を設定し、そしてその人物像に合った役者を探し、役者が決まると今度はその演技を見ながらまた脚本を書き変えて行くらしい。画面には全く現れてこない細かい背景設定をした上で役者に役を与えているのも判る。
演出においては実に小さな仕草に至るまで事細かい指示が来るのだそうである。きっと、この人も最初からしっかり絵が見えている監督なのだ。時任三郎が「監督はマシュマロのようにソフトな方なんですが、それをはがすとダイヤモンドが出てきます」と評しているのはそういう意味なんだろうと僕は解釈した。
こういうものづくりの姿勢がこういう面白い映画を産むんだなあ、としみじみ思った。
『ウォーターボーイズ』や『スウィングガールズ』よりももっと規模の大きい群像劇である。この群像劇の登場人物の一人一人が(あんまりたくさんいるのでいちいち書かないけど)これだけ個性豊かに描けたのもこの監督ならではの力量なのだろう。
それから余談だが、僕はこの監督については『ウォーターボーイズ』、『スウィングガールズ』と言ったようにちゃんと複数形のSをつけてくれるところ(個人よりも群像を扱おうとしていることもあるが、『フラガール』みたいなタイトルはつけないところ)が好きだったのだが、今回は単数形で、タイトルに不定冠詞はついていない。
せめて英語表記のほうだけでも A HAPPY FLIGHT にしてくれれば嬉しかったのになあと思った。
そう、これはひとつのハッピーなフライトの記録であり、ひとつのハッピーな映画であり、ハッピーな映画作りの試みであった。見終わって非常に満足である。
★この記事は以下のブログからTBさせていただきました。
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Comments
はじめまして、frankと申します。
昨日ようやく見てきました。
非常にテンポがよく、バランスのとれた映画で楽しめました。
これだけの俳優さんがそろっているのに、それぞれ見せ場があり、
時任三郎さん、田辺誠一さん、綾瀬はるかさん、田畑智子さん、
寺島しのぶさん、吹石一恵さん、岸辺一徳さん...
全員好きになりました。
スウィングガールズも好きですが、今作でさらに矢口監督が好きになりました。
Posted by: frank | Monday, November 24, 2008 13:52
> frank さん
どうも。書き込みありがとうございます。んで、僕はあなたの「全員好きになりました」という表現が好きになりました。矢口映画ってなんかこんな風にみんなをハッピーにしてくれるんですね(笑)
Posted by: yama_eigh | Monday, November 24, 2008 18:02