『コミュニケーションをデザインするための本』岸勇希(書評)
【11月26日特記】 良い本である。広告の入門書でありながらかなり深いところまで掘り下げている。広告業界を志す学生さんには是非読んでもらいたい本だとも言えるし、一方、全くの門外漢が娯楽として読むのにも充分耐えうる本だとも言える。
つまり、面白いということ。
面白くなければ読んでもらえないということを、この著者はちゃんと解っているのである。そういう人でなければ大衆に訴求する広告は作れないし、解説本としても説得力はない。
なんと言っても良いところは、本のページの隙間に著者の人間的魅力のようなものが滲み出ているということである。
考え方がフレキシブル、などと書くと逆にちょっとインチキ臭いし、融通無碍などと書くと格好つけすぎの感じがする。そうではなくて「凝り固まってない」というのがこの著者のスタンスを一番良く表す表現なのではないだろうか?
一例を挙げれば、電通の登録商標である AISAS モデルさえ決して唯一絶対視していない(ま、当たり前なんですが、これを金科玉条のごとくご高説を垂れる電通マンにも何人か会ったことがあるので・・・)。
肝に力は漲っている。でも、肩に力が入っていない。だから思い込みからフリーである。だから、斬新で、かつ的確な広告手法にたどり着けるのである。
僕が唯一抵抗を覚えたのは、彼が多用している「仕組みではなく、気持ちをデザインする」という表現──これはなんだか胡散臭い。でも、それ以外の、彼の筆致、広告の世界の現状分析、彼が手がけたデザインの実例を惜しみなく開示しての解説、そして彼の表現者としての信念──どこを読んでも、うん、うん、と納得の行く本だった。
図案も多く、彩りも綺麗で読みやすく、表紙の質感も良い。そう、その辺りからもうコミュニケーションは、表現は始まっているのだということに気づかせてくれる良書であった。
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