ドラマW『ルパンの消息』
【10月12日特記】 録画してあったドラマW『ルパンの消息』を漸く観た。
今季のドラマWは『シリウスの道』、『6時間後に君は死ぬ』と、この『ルパンの消息』の3本である。しかし、僕はまだこの作品を見ないうちに「今回一番面白いのは多分『6時間後に君は死ぬ』だろう」とこのブログで書いた。
なぜ、この『ルパンの消息』を見ないうちに一番ではないと断定した(いや、断定はしていない。単に推測した)かと言うと、そこにはいくつか材料がある。
まずは監督の水谷俊之。この人、過去の WOWOW ドラマWでも何本か見ているのだけれど、どうも僕にとっては可もなし不可もなしという印象なんだよね。だから、今回もそんなに飛び抜けて面白いということはないだろうと踏んだ。
それから、何よりも決定的なのは、横山秀夫原作だということ──どうも僕はこの作家と相性が悪い。そもそも人に勧められて『半落ち』を読んでイマイチ感心しなかったのだが、そのあと去年見たドラマW『震度0』が同じ横山原作で、やっぱりあんまり感心しなかった。
しかもこの『震度0』は水谷俊之監督。主演も同じ上川隆也──となると、やっぱりあまり期待できないと思った訳だ。
いや、話としては面白いんですよ。でも、突飛。
読者を欺くテクニックは大したもんだけど、誰にも容易に謎解きできないものを、読者があっと驚くようなものを書くぞ!と力むと、どうしても突飛なものにならざるを得ない。しかし、少なくともシリアスなドラマを描こうとしているのであれば突飛になってはいけないのである。
人間がちゃんと深く描かれるのであれば、一部の賢い読者に早々とトリックを見破られてしまっても構わない──と思ってくれるくらいの作家のほうが僕との相性は良いのである。
今回のお話は、15年前に「3億円事件」の最後の容疑者をしょっ引きながら事情聴取の最中に時効を迎えてしまうという苦い経験をした溝呂木刑事(上川隆也)が、ある事件の捜査チーフとして招聘されるところから始まる。
その事件は3億円事件の時効の日に自殺したと思われていた女性教師が、実は当時の男子生徒3人によって殺されたのだというタレコミによって、俄かに捜査本部が設けられた殺人事件である。
こういう始まり方がいかにも思わせぶりじゃないですか。他の事件を扱いながら、最後には3億円事件が絡んでくるんだなと、誰でもそう思うでしょう。わざとらしいよね。
単に溝呂木の過去を紹介して、現在の心境を語るためだけなら、3億円事件の最後の容疑者役に遠藤憲一みたいな曲者持って来ないでしょう。
でもね、この2つの事件を無理やり結びつけようとすると、そりゃ突飛なものになるでしょうよ。確かに発想としちゃ面白いんだけどね。ちょっと無理があるんだよね。
おまけに、署での取り調べを受けて、それぞれの参考人が順番に綻びを露呈して、そこを突かれて結局真実を語り、事件の真相が少しずつ見えてくるという構造がうまくできすぎている。
作者は何箇所かに布石を打つのだが、その布石がピカピカに光っていて丸わかりなのである。
そして、何よりも、どうして横山秀夫はこの作品を、殺人事件の時効の前々日をスタート地点にしたんだろうか。溝呂木が呼ばれた時点ではもう時効まで48時間残っていないのである。
時効と競走するという設定はアリだ。でも、それを2日前にする必然性がない。いや、2日前にしたことによってリアリティがかなり壊れる。そんなに物事はトントン拍子には運ばんぞい。例えば時効の2ヶ月前にしておけば、もっと重厚なドラマにできたのではないだろうか。
しかし、このドラマの救いはキャストの良さにある。なかなか目のつけどころ良く、俳優をピックアップしてきた感がある。
女教師殺人事件の容疑者は岡田義徳、新井浩文、柏原収史の3人である。「主演クラスの3人」と書くと語弊があるかもしれないが3人とも実際に主演/準主演の映画がある訳で「まかり間違うと主演してしまうクラス」の3人である。これはなかなか三人三様に嵌り役だった。
そして事件のカギを握る同僚女教師に羽田美智子。前述したが3億円事件の元容疑者役に遠藤憲一。以上5人が警察に呼ばれる参考人たちである。
一方、取り調べる警察の側は、刑事部長に長塚京三。捜査チーフに上川隆也。
ここまではまあ刑事役としてありきたりな配役だが、上川の同期でありながら補佐役を命じられて面白くない刑事役に吹越満、自信満々の事情聴取担当刑事に津田寛治、所轄の叩き上げ刑事に塩見三省、ベテランの鑑識に山田辰夫、溝呂木とともに3億円事件の容疑者の聴取にあたっていた刑事に正名僕蔵、新米刑事に中村靖日と、ここまで並べるといぶし銀の渋さでしょ?
だから、まあ、ドラマとしてはそこそこ出来てたって訳。でも、予想通り、ちょっと突飛。ちょっと無理。
結論としては、今季3本のドラマWで一番面白かったのはやっぱり『6時間後に君は死ぬ』であった。
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