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Saturday, September 13, 2008

『大日本人』

【9月13日特記】 WOWOW から録画したままになっていた『大日本人』を観た。松本人志第1回監督作品。

僕はある時期、『日経エンタテインメント』に連載されていた松本人志の映画評を愛読していた。かなり感覚的な記述が並んでいるのだが、評価する眼は不思議に軸がぶれてない感じで、僕の感想と相容れないケースもしょっちゅうあったが、それでもいつも却々良い所に目をつけているなあと思いながら読んでいたのである。

ただ、まあ、あまりボロカス、クソミソに貶すのも如何なものかという気はしていた(もちろん褒める時にはちゃんと褒めてもいたが)。あんな風な書き方をしていると立場が逆になった時は大変だ、とぼんやりと思っていたのだが、まさか本当に松本人志が映画を撮るとは思ってもみなかった。

敢えて他人の作品を酷評し、その逆風の中に漕ぎ出す潔い日本男児なのかもしれない。

ただ、当時僕は「よせばいいのに」と思った記憶がある。映画を正しく評価する能力と映画を素晴らしく作り上げる能力は全く別のものだ。自分では映画を作っていなくても、映画に適切な批評が加えられるのであればそれで充分ではないか、と思っていた。

果たして、出来上がったこの映画の評判はたいして高いものではなかった(ちなみに2007年キネ旬では第45位)。僕は、ま、映画館で観る必要はないか、WOWOW でやった時に見よう、と思って(録画したまま放っておいた期間が長くなったが漸く)今日に至った訳である。

「大日本人」というタイトルの映画はインタビューされている「大佐藤」(松本人志)のワンショットで始まる。早い時点で大佐藤が折り畳み傘や乾燥ワカメを「いざという時に大きくなるから良い」と褒める台詞が2回ある。──となると大佐藤がどんな能力を持つ人物なのかは何も知らなくても容易に説明がついてしまう。

それはちょっと、仕掛ける謎としてはチャチだろうなどと思ったのだが、しかし、それを隠したまま引っ張るのかと思ったら、そうではなくてすぐに種明かしがある。

大佐藤は代々、体に電流を流すとデカくなる能力を持つ人間で、防衛庁の命を受けてさまざまな「獣(じゅう)」と戦うのである(しょっぱなに出てくる獣が海原はるかであるところが笑えるのだが、これはひょっとして関西人にしか通用しないか?)。

最初の戦いの場面までにかなり長く、そして、その後の何度かの戦いと戦いの合い間もずっと、大佐藤がどこかのビデオジャーナリストにインタビューされているという設定で映画は進むのであるが、これが如何にもドキュメンタリっぽくて見事なほどである。

訊く側が用意してきた質問、それに対して考えながら返される答え、如何にも会話らしいやや論理性・整合性を欠いた回答、向けられるカメラに対する意識的/無意識の反応、そして、如何にもドキュメンタリがやりそうな(あとで編集するときに画が繋がらなくなった所に挿入するための)捨てカット(手許のアップなど)まである。

本物のドキュメンタリを見てるような気がしてくる。大佐藤という男の仕事と日常が次第に見えてくる。マネージャ(そんなもんまでおるんかいっちゅう感じで、なんと演じているのがUAである)やら妻子やらも出てきて、この男の誇りも苦悩も意地も信念も、いろんなことが少しずつ明らかになってくる。──この辺が非常に巧い。

それに対して、獣との対決シーンは結構本格的なSFXを導入しながら、くすぐるようなお笑いたっぷりの構成である(板尾創路の獣も最高に面白かったがこれまた関西ネタか)。

で、いろいろあって、そこそこ退屈せず面白く見てきたけどそろそろ飽きるかな、というタイミングで映画は飛んでもない所に行ってしまう。

ああいう所に行ってしまうのが如何にも松本人志らしい気がする。どうしても、ああいう下らない所に落とし込みたかったのね。気取った芸術にはしたくなかったんだね。(多分相当意識していたはずの)北野武とは違う所に、まさに「落とし込んだ」という感じ。吉本興業の人はほっとしたんじゃないかな。

いやいや、北野武だって毎回毎回芸術になって終わっている訳ではなくて、今回松本がやったような落とし込み方はやっているのである。ただ、北野武が照れ笑いしながらおどけてやっているのに対して、松本人志はせせら笑いながら意地になってやったような印象がある。

あれはあれでちっとも構わないと僕は思うのだが、ただ、あれをやってしまうとランキングの20位以内には決して入ってこないだろう。もちろん松本もそんなことは先刻承知でやっているんだろうけど。

僕は意外に楽しんだ。エンドロールでのシュールな「家族の会話」の面白さも秀逸だったし。

冒頭なんとなく全体に黄色っぽいトーンで始めて、ずっと見ているとそれぞれのシーンシーンで背景や衣装などの色のトーンをコントロールしてる感じがあり、赤っぽかったりブルーだったり、いきなり桜のピンクで驚かしたり、そしてそれが最後のあのチープな実写ヒーローもののセットになだれ込んで行くところなんか、なかなかセンスを感じさせてくれた。

彼は今後まだ映画を撮るのだろうか。今回と趣が違うものを撮るのであれば今度は映画館で観ても良い気がする。

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