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Saturday, September 06, 2008

映画『闇の子供たち』

【9月6日特記】 映画『闇の子供たち』を観てきた。

見終わって最初の感想は、「阪本監督が一番伝えたかったことは、多分僕には伝わらなかったんだろうな」ということだった。

この手の映画は苦手なのである。パンフを開くと1ページ目に「これは、『闇』に隠された真実の物語」と書いてあるが、そんなこと言われると、「嘘つけ、フィクションだろうが」と言いたくなってしまう。

別にフィクションというものは嘘っぱちのデタラメだなどと言う気はない。ただ、醜く過酷な真実を突きつけたいのであれば、それは本来ノンフィクションとかドキュメンタリとかいう手法で訴えるべきだと思うのである。

ドキュメンタリの映画化であるならそれもまた良いと思う。それは言わば「再現」であって、ドキュメンタリでも認められている手法だ。ところがこの映画はフィクションの映画化なのである。

フィクションで現実を抉ろうとするとややこしいことになりがちなのである。どこかに曲がって偏ったところはないかという心配が常に付きまとうし、下手するとどこが「ありのまま」でどこが「ありのままでない」かということばかりに焦点が当たってしまうのである。

だから初めから観ることに抵抗があった。それでも見に行ったのは、単に宮﨑あおいが観たかったからである。(宮崎あおい)

宮﨑あおいが「バカ女」を演じている。実際に映画の中で江口洋介から「バカ女!」と面罵されている。

「所詮自分探し」からNGOに入ってタイに行ってボランティアをやって何某かになったような気分でいる。自分の感情に流されっぱなしで、全ての観点が主観であり、自分の中に湧き起こる激しい感情を吐き出すことだけが正義だと信じ、自分がそれを言ったりやったりすることにどういう効果かがあってどういう影響を及ぼすのかを予想してみる客観性も忍耐力も大局観もなく、物事を全体的に捉えて合理的に推し進める能力に決定的に欠けている──そういうバカ女である。

僕は見ている途中で、「このバカ女の敗北感をどこまで徹底的に描けるかがこの映画の勝負だろうな」と思ったのだが、豈に図らんや、このバカ女がとうとう最後まで無傷で終わるのである。

いや、それどころか、英雄的な行為で子供たちを守り、「自分に言い訳したくない」などという立派な台詞を吐くのである。こういうバカ女が調子に乗ってのさばって、世の中はどんどん悪くなるんだろうな、と哀しくなった──そんな感じ方をしたのはひょっとすると日本中で僕だけかもしれないが(-_-;)

それに比べて、もう1人の主人公である新聞社のタイの特派員である江口洋介の方は、客観性を持ってシステマティックに物事を進めようとした人間である。たとえどんな不純な動機であれ、どんな過去があれ、粘り強く全体像を描いて動いていた人間である。そんな人間が全く報われることも救われることもなく、ただバカ女が自信を持って歩み始めるのがこの映画である。

例によって「社会派映画」なんて表現をしている人がいるけど、インチキ臭いなあと思う。

エンディングで桑田佳祐の歌がかぶってきたのだが、これがまさに「おいおい、火曜サスペンスかよ」と言いたくなるような興醒め。で、スタッフロールが流れ始めると冒頭に「製作 大里洋吉」と書いてあって、「なんじゃ、そういうことか」というダブル興醒め。

映画的な冴えという点では同じ阪本監督の前作(前々作か?)『魂萌え!』に遥かに及ばない。

いや、ちょっと貶しすぎたかなあ?

笠松則通というベテランカメラマンがしっかりした画を撮っていて、江口洋介、宮﨑あおいの力演に加えて妻夫木聡の情けない感じの若者がすごく良かったし、出番の少ない佐藤浩市が抜群の存在感だった。

その佐藤が突然「あんた子供いるの?」と問い質すあたりの台詞運びも非常に巧い。江口が「いるけど一緒に住んでません」と答えたら「一緒に住んだ方が良い」と切り返すところも凄い。これが行き過ぎた取材を受けて怒る父親の台詞なのである。絶句してしまった。

それから1人も名前を知らないけど、タイの俳優陣(子役を含む)も素晴らしかった。

そういう風に悪くない映画である証拠を挙げようとするといくつでも挙げられる。また、テーマも非常に立派なものであるし。

そして、テーマが立派であるから安易に貶しにくい映画になっている。──その辺りがもうどうしようもなく間違っているような気がするのだが・・・。

★この記事は以下のブログからTBさせていただきました。

犬儒派的牧歌
茸茶の想い ∞ ~祇園精舎の鐘の声 諸行無常の響きあり~
日っ歩~美味しいもの、映画、子育て...の日々~

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