ドラマW『シリウスの道』
【9月20日特記】 映画を観に行こうと駅まで行ったのだが、電車が脱線していてどこにも行けなくなってしまったので、家に帰って、録画してあったドラマW『シリウスの道』を観ることにした。
元日本テレビで『池中玄太80kg』などを撮っていた石橋冠という人の監督作品なのだが、演技がどうとかカメラワークがどうとか言う前にどうも原作・脚本に引っかかってしまってあまり楽しめなかった。
主人公は大手広告代理店・東邦広告の辰村副部長(内野聖陽)。彼が所属する京橋営業局に大手家電メーカー・大東電機から新規事業の広告プロジェクトのコンペに参加するように要請があった。しかし、東邦広告で大東電機を担当しているのは銀座営業局なのである。
──こんなことは通常あり得ない。同じクライアントを社内の違う営業局で取りあうなんて、広告代理店にとって自殺行為である。どんな会社でも万難を排してそういう事態は避けるはずである。
この場合は、京橋営業局が仕掛けた訳ではなく、大東電機の半沢常務(田中健)から東邦広告へトップダウンでもたらされた話だから代理店側も仕方なく受けたという設定になっているが、しかし予算18億円の発注があった訳ではなく、ただコンペに参加できるだけであり、今まで担当していなかった京橋局が突然案を練っても他店に負ける可能性は非常に高い。
いくら何でもこんな案を受けることはないだろう。原作者の藤原伊織は電通にいたのに、どうしてこんな非現実的な設定をしてしまったのだろう?
「他店から扱いを奪うためには手段を選ばない」というのは広告代理店の常態ではあるが、社内でこんな血みどろの争いをしている会社が一流広告会社であるはずがないのである。
しかも、ビジネス・トークがいちいち響かないのである。当然のことながら広告営業の世界で説得したりされたりするシーンが多いのだが、どうもそれがストンと落ちない。派遣社員の栗山千明がベテランのプランナーを言い負かすシーンがあるのだが、これなんかも単にお互いに噛み合わない2つの理屈が展開されているだけにしか見えないのである。
大体において、哀しいかな、仕事のトークはこれほど劇的に進まないのである。仕事をやっていると時々芝居がかった台詞を吐いて重要人物を説得しきったりスタッフ全員の心をひとつにしたりする自分を夢想してしまうことがあるが、現実は却々そういう風には運ばないのである。
最後に東邦広告の社長(夏八木勲)が出てきて大岡裁きをする訳だが、うーん、社長は神様でも天皇でもないよ、と言いたくなってしまった。電通の歴代の名物社長でもこれだけ神がかりではないだろう。
で、そういう広告業界の舞台裏(?)という設定に、さらにいささかややこしい設定が加わる。
大東の半沢常務が東邦の京橋営業局にコンペ参加を要請したのは単に辰村に接触するためだけのものだったのである。この辺の作り方が飛びすぎだよね。
半沢夫人の明子(大塚寧々)は辰村の幼馴染で、もう一人の幼馴染・浜井(寺島進)との3人には知られざる秘密があって、しかも別の理由から浜井が半沢を脅迫しているというややこしさ。
さらに辰村と上司の女性部長・立花(真矢みき)との微妙に隠微な関係も描写されて、僕にとっては面白いというよりもちょっととっ散らかった感じ。
浜井が半沢を脅迫する理由も、中学時代の3人の行動も、社内の勢力争いの結末も、すべてがなんだか薄っぺらな描き方で、少し腑に落ちない部分が多すぎた。
思い切って3時間半くらいの大作にするべきであったのかもしれない。そうすればたくさんある要素ももう少し座りが良くなったのではないかな。
ま、でも、感情移入できなかった一番の理由は僕がなまじ広告会社のことを知っているからだと思う。それにしても、藤原伊織さん、故人に対して言っても仕方がないが、門外漢が描くならいざ知らず、こんな風に広告業界を描くのはちょっと作りすぎではないかい?
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