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Monday, September 15, 2008

映画『おくりびと』

【9月15日特記】 映画『おくりびと』を観てきた。

公開直前にモントリオール世界映画祭グランプリ受賞の報が入ってきたが、それにつられたわけではない。多分こういう究極の"異文化もの"は海外受けするんだろうなあ、というぐらいにしか思ってなかったから。

僕が惹かれたのは脚本を書いた小山薫堂である。

TVのギョーカイでは、ま、知らない人はないだろう。『料理の鉄人』とか『ハンマープライス』とか、構成作家として手掛けた大ヒット番組は数多くある。が、僕にとって一番印象が強かったのは出世作である『カノッサの屈辱』だった。

こういうパロディと言うか「もじり遊び」は小さい頃からいつも僕の頭の中にあったものだ。それをこんな風にTVという大衆娯楽の場に引き出してきた──はあ、こういう風に番組を作るってアリなんだ、としみじみ思ったことをよく憶えている。

その小山が、TVドラマの脚本を書いたことはあったらしいが、初めて映画のために書いた脚本がこれである。そしてそれは、とてもこれが初めてだとは思えない素晴らしい出来の作品になった。

そもそもは納棺師に興味を持った本木雅弘がセディックインターナショナルの中澤敏明社長に映画化の話を持ち込み、そこで小山薫堂がブッキングされて、納棺師と山形というお題が2つだけの発注が来たのが最初とか。

納棺師という言わば奇抜なテーマのほうはそれなりに処理しやすかった部分もあるだろうが、そこに大きなプロット、小さなエピソード、そして細かい笑いの要素でうまく肉付けして、ホントに見事な映画が出来上がったと思う。

主人公の小林大悟(本木雅弘)はひょんなことから納棺師という飛んでもなくレアでニッチな職に就く。しかし、その前は平凡なサラリーマンだったかと言えばそうではない。オーケストラのチェリストだったのだ。突然楽団は解散となり、自分の腕前ではこれ以上音楽で食って行くのは無理と考えての転職だった。

だからこの転職は日常の世界から非日常の世界に引きずり込まれたという性質のものではなく、一方の非日常から他方の非日常への転換と言うべきものだ。この設定が非常によかったと思う。

納棺師とは知らずに面接を受けに行き、待ち構えていた佐々木社長(山崎努)にまさに飛んで火に入る夏の虫とばかりに即刻採用を決め込まれてしまう。でも、それを受け入れられたのは何となく前職がチェリストなどという浮世離れしたものだったからという面もあるのではないかな、と思うのである。

ただ、大悟は妻の美香(広末涼子)には何の仕事なのかは言えないままだ。「冠婚葬祭の会社」などと誤魔化している。

さて、その日から大悟の非日常的な体験が始まるのだが、しかしこれは非日常的に見えて実は人間にとって一番の普遍的日常である人の死を扱うものであり、変なものでも汚いものでもないということが次第に見えてくる。何よりもまず、そこにあるのは人(の生命)に対する尊厳である。

そう、そういう意味でこの映画は思いのほか荘厳な作りになっていた。

そして、「死」と対比的に描かれるさまざまな「食」のシーンの面白さ。この辺も非常に皮肉が利いている。

僕の大好きな山田辰夫を筆頭に、余貴美子、笹野高史、吉行和子と名優揃いで、この登場人物たちが全く無駄なくストーリーに絡んでくる。よくできた設定だ。

そして役者が良いのか、演出が良いのか、カメラが良いのか分からないが(恐らく全部だと思うが)いやあ、良い芝居、良い画!

映画館の中で何度も笑いとすすり泣きが聞こえる。

大悟が最初の仕事(死後1週間の老婆の腐乱死体の納棺)をして、その日の夕食に捌いたばかりの鶏肉を見て吐きそうになり、そこから妻に抱きついて泣く辺り、なんだか分からないけどものすごくよく解るシーンなんだよね。

一連の儀式のシーンも、チェロの演奏も非常に丁寧に見せてくれて、圧倒的なリアリティがある。そして、台詞を含めて説明的な要素がほとんどないところが素晴らしい。

泣ける映画が良い映画だとは全く思わないが、何度も何度も泣いてしまったのも事実。これは賞を獲ったのもむべなるかなという映画であった。

監督は滝田洋二郎。最初に見たのは『コミック雑誌なんかいらない!』(1986年2月9日、池袋テアトルダイヤ)だった。僕が映画館で観たものだけで、あれから数えて8本目。非常に多才な監督である。

しかし、それにしても満員の観客はほとんど僕より年長だった。やっぱりこういうテーマは若い人には無理なのかなあ・・・。

★この記事は以下のブログからTBさせていただきました。

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