歌鬼(それを Ga-Ki と読ませるのはやっぱり無理があるだろう)
【8月7日追記】 タイトルについて、及びこの記事の前段となる事情については8月2日の記事の本文とコメント欄を参照されたし。
で、amazon から『歌鬼』が届いたのである。ここでまた曲順を掲載しておく。
- ジョニイへの伝言(鈴木雅之)
- 白い蝶のサンバ(一青窈)
- 思秋期(森山直太朗)
- たそがれマイ・ラブ(中西圭三)
- 熱き心に(元ちとせ)
- ペッパー警部(Mizrock)
- 恋のダイヤル6700(音速ライン)
- 時の過ぎゆくままに(工藤静香 feat. 押尾コータロー)
- 朝まで待てない(甲斐よしひろ)
- ざんげの値打ちもない(山崎ハコ)
- ひまわり娘(杏里)
買う前に少し心配だったのは、それぞれの曲がどんな風にアレンジされているか。せめて編曲家の名前だけでも判ればなあと思いながら、結局判らないまま買ってしまった。
で、パッケージを開けてまず脚本家の名前を確認──武部聡志、佐藤準、清水信之など結構有名なアレンジャーが並んでいたので少し安心する。と、おや? 10曲目には見たことのある名前が──山崎一稔。そう僕のブログに書きこんで来たプロデューサ氏である。
慌てて名前をググッてみる。へえ、三輪車のメンバーだった人ですか。
ま、とりあえず順番に聴いてみよう。
多分妻に(ちょっとだけ馬鹿にしたような口調で)「何、これ?」って言われるだろうなと思いながらプレイヤに入れたら、1が始まった途端に妻は一緒に歌いだしてしまった。うん、そういうアルバムなんだよね、これは。
この手の企画アルバムを成功させるには2つの方法があって、ひとつはできるだけ原曲のイメージを損なわずに、その良さを再現するやり方。もうひとつは思いっきり違うアレンジを施して斬新さを狙うやり方。
この『歌鬼』にはそれら両極端の曲が良いバランスで散りばめられていると思う。一番避けるべきは「原曲のイメージに忠実でもなく、かといって斬新でもない」中途半端なのだが、そういう出来の曲は1曲も入っていない。
で、どちらのタイプを好むかとなると、もうそれは聴き手の好みの問題で、まさにその人によるということになるのだろうが、僕は大筋として新奇なアレンジを好むほうである。
そういう意味で、このアルバムの中で一番企画性が高い(つまり一番奇を衒った出来になっている)のは4と6だろう。
4はシャッフルの利いたピアノで始まる。ちょっとこの曲だとは想像がつかない。ジャズっぽく、そしてほんの少しだけシャンソンっぽい感じもする。短調の曲のイントロを長調にするという手の込んだオープニングだ。でも、中西圭三の安定した歌唱が始まると、どんなに調子を変えてもやっぱりこの歌はこの歌だという気がするから不思議だ。
6も手の込んだ編曲。この歌手に歌わせるとなると、このぐらいのことはやらないと面白くないだろう。言うなればチャールストン・ロックンロール。リフが効いててベースラインも面白い。なかなかスリリングなペッパー警部の出来上がりである。
反対に、あまり小細工をせず、原曲のイメージそのままに、原曲の良さを前面に押し出したのが1、11あたり。
いやいや、ああしようとかこうしようとかいろいろ考えても考えなくても、誰が歌っても結局一緒になってしまう(だからこそ名曲なんだけど)というのが7とか9とかである。
7なんか誰が考えても8ビートの曲なのにわざわざドラムスに倍のリズムを刻ませるなどかなり工夫はしてるんだけど、やっぱり『恋のダイヤル6700』は『恋のダイヤル6700』なのである。
9も然り。鈴木ヒロミツは死んじゃったから知らない人がいても仕方がないけど、それどころか「甲斐よしひろって誰?」なんて言ってる若い人もいるんだろうな。でも、モップスの原曲も、かつて小山卓治がカバーした時も、そして今回の甲斐よしひろも全部同じ。いや、アレンジや歌い方が同じということではない。なのに同じ魅力があるという不思議である。
組合せの妙を感じさせるのが2、8、10。
2なんかあまりにケレン味のない作りなんだけど、一青窈とこの曲が、なんか異様に合ってるのよね。
8も工藤静香があまり工藤静香らしさを強調せず(ま、アイドル時代より年取ったということもあるけど)、押尾コータローがまた自分があんまり前に出すぎないアレンジをして却々良い感じ。
10は、まあ、よくぞこの曲にこの歌手を持ってきたもんだと驚嘆する組合せであり、そして予想通りの出来である。僕が若かった頃によく言われていたことを思い出した:「もし、気分が落ち込んだら中島みゆきを聴け。それでも気分が持ち直さない場合は山崎ハコを聴け。それでもダメだったら、もう森田童子を聴くしかない」──解るかなあ、この感じ。そして、その感じをまさに具現しているのがこの歌なのである。
3なんかは、僕なんかからするとあまりに俗っぽくなっているような気がするんだけど、これもまあいかにも岩崎宏美を森山直太朗が歌ったという感じで、森山のファンにしてみればたまらないのかもしれないと思う。
で、いろいろ書いてきたけど、やっぱり圧巻は5である。これなんかは原曲の良さも新奇なアレンジもへったくれもなくて、要するに元ちとせの勝ちなのである。何をやっても元ちとせは元ちとせ。これは誰にも変えられない。もう完全に予想通りの仕上がり具合。ちょっと過剰サービスなんじゃないかと思うくらい声裏返る裏返る!
そして最後の曲(杏里の『ひまわり娘』──あゝ、合掌!)が始まると、いつしかまた妻がハモッていた。
そう、そういうアルバムなのである、これは。
【8月7日追々記】 歌詞カードを開けてみて、なんだ、この違和感は?と思ったら、歌詞が縦書きになっているのである。
そう言えば、昔のドーナツ盤のジャケット裏には縦書きの歌詞が印刷されていたものだ。いや、歌詞だけじゃなくて、多くの日本語は縦に書かれていたものだ。──そう思うとなんか懐かしい、いや、愛おしい気がしてきた。
阿久悠って、確かに縦書きの歌詞を書いてきた人だったと思う。良いとか悪いとかじゃなくて。
Comments
はじめまして。私も昨日買ってきました。
歌詞の縦書きと、楽曲リストやスタッフの部分の横書きがちょっと無理から読みにくいのは難点でした。
詩を縦書きにするなら、右開きの綴じ方にした方が良かったようなきもしました。
歌の方ですが、山崎ハコさんは元歌みたいでしたね。
直太朗君はバックが合唱でなくて、ギターかピアノソロの方がなお良かったような気がしました。
「思秋期」という言葉は、阿久先生が岩崎宏美さんのアルバムの帯で
「青春期」「恋夏期」「思秋期」「感冬期」という四季にあわせて書いたことがスタートになっているようです。
良ければ、オリジナルのアルバムも聴いてみてください。
www.neowing.co.jp/detailview.html?KEY=VICL-62271
Posted by: 二の腕プルプル | Thursday, August 14, 2008 21:19
> 二の腕プルプルさん
そう、僕もそう思いました。違和感があったのは単に縦書きだったからではなく綴じ方が逆だったからなんですね。
それから「思秋期」のトリビアありがとうございました。なるほど、です。
Posted by: yama_eigh | Thursday, August 14, 2008 21:35