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Saturday, July 05, 2008

映画『相棒 ─劇場版─』

【7月5日特記】 映画『相棒 ─劇場版─ 絶体絶命42.195km』を観てきた。和泉聖治監督。

この監督は多分82年の『オン・ザ・ロード』と86年の高樹沙耶のデビュー作『沙耶のいる透視図』が有名なんだろうけど、僕はいずれも観てなくて、僕にとっては86年の『南へ走れ、海の道を!』、88年の『この胸のときめきを』以来20年ぶりの3本目である。

いや、単に僕が長らく観ていないというのではなく、今世紀に入ってからほとんど映画を撮っていないようだ。では、一体何をして食っていたのか?と思ったら、この『相棒』のTVシリーズを手掛けていたらしい。

などと書いているくらいだから、このTVシリーズは1回たりとも観たことがない。

それにも拘らず観に行ったのは、和泉聖治の名前が懐かしかったからでも、単に非常に高い評判が立っているからでもない。僕にとっての決定打は脚本の戸田山雅司だったのである。

戸田山雅司の名前を最初に見つけたのはCXの『世にも奇妙な物語』だった。僕はこのシリーズが好きで割合よく見ている。

ある日、一体いつの年のどの回のどんな話だったか全く記憶がないのだが、ともかくその回の『世にも奇妙な物語』の中にとてもよくできた面白い脚本があり、これは一体誰の手に依るのだろうか、とエンドロールを注視していたら彼の名前があったのである。

その後、また別の回の『世にも奇妙な物語』でよくできた面白い脚本があり、これは誰だろうと思って確かめたらまた戸田山だった。そんなことがあって名前を憶えたのだが、当時は第三舞台の人だとは全く知らなかった。

その後、映画の脚本も手がけるようになってからは『サトラレ』、『阿修羅城の瞳』、『UDON』を観た。『阿修羅城』(これだけは共同脚本)はあまり出来の良くない映画だったが、他2つはそこそこ良かった。なかなか巧い作家なのである。

この映画でも、主人公の2人の刑事が所属する「特命課」が、決して特命を帯びた捜査をするカッコ良いセクションではなくて、何らかの理由で疎まれて追いやられた閑職であることを簡単な台詞2つか3つで説明し切っている。TVシリーズを観たことがない者でもすぐに理解できるのである。

しかも、その台詞が決して説明的な台詞ではなく、設定と進行の中で自然に口をついて出てくる台詞なのである。これはとてもとても大事なことなのである(そのことについて僕は過去こんな記事こんな記事を書いている)。そして、戸田山という作家はそれがちゃんとできる作家なのである。

筋もそこそこ面白い。僕が面白いというのは謎解き・トリック・囮などのサスペンスとしての仕掛けについてではない(そういうことそのものについての評価は他の人に任せたい)。逆にそういうことに終始しない二枚腰の脚本であるところが良いなあと思うのである。

犯罪があって捜査があって解決しました、というのではなく、そこに政治とかマスメディアとか、勝手に動き出すと止まらないお化けみたいな存在が絡まってくる。一番卑俗な書き方をすると「社会派」、でもそんな説教臭いものにならずにちゃんとエンタテインメントに踏みとどまっているところがミソなのである。

水谷豊と寺脇康文の演ずる2人の主人公をはじめとして、さまざまな登場人物の性格付けが非常によくできていると思ったのだが、これはレギュラー番組としての積み重ねの威力なんだろうなあ。寺脇のSETでの「相棒」である岸谷吾朗が何とも言えない間抜けな役柄で友情出演していたのも楽しかった。

ただ、クライマックスで必ず大仰な音楽が鳴るというのはもちろん映画においては常套手段ではあるのだが、ちょっと安っぽいかなという気はした。

でも、まあ、次から次へと新たな隠し弾が出てくる構成は見事。とても、面白かった。

しかし、パンフレットには厳重に封がしてあって見終わるまで絶対読むなと書いてあるのだが、そこまでやるほど予想のつかない大どんでん返しという訳でもない。「途中である程度読み切れたけどなあ」と首を傾げながら封を切ってみたら、そこに入っていたのは事件解決後に発行された新聞という体をとったものだった。なるほどさすがに先にこれが目に入っちゃうとぶち壊しである。

ところで、映画『スウィングガールズ』でとても鮮烈な印象を残し、その後NHKの朝の連ドラのヒロインに抜擢されながら、なんかあまりぱっとしなかった本仮屋ユイカが結構大きな役どころで、しかも好演していて僕としては大変嬉しかった。同じスウィングガールズだった貫地谷しほりにここのところ引き離された感があったので、ここから盛り返してほしいものだと思う。

僕としてはこれをB級映画に分類する。非常に出来の良いB級映画に。

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