『iPod をつくった男』大谷和利(書評)
【6月26日特記】 示唆に富んだ面白い本ではある。ただし、期待したほど exciting な内容ではなかった。やっぱり僕らはスティーブ・ジョブズというスーパーカリスマには仰天するようなエピソードが山ほどあるはずだ、と知らず知らずのうちに期待してしまうのである。でも、ジョブズは天才ではあっても奇人でも変人でもないみたいだ。
著者の大谷和利は1986年以来のマック・ユーザだそうである。僕らのようなマックをほとんど触ったこともないような人間にとってはそれだけで充分な説得力があるのだが、それに加えて彼は前書きでスティーブ・ジョブズのインタビューをしたことがある、スティーブ・ウォズニアックのインタビューをしたこともあるしビル・ゲイツのインタビューも行った等々と書いている。
実はこれを読んでちょっとげっそりしてしまった。これを前書きに書く必要はあるのかな? 20年来の友人だと言うのならともかく、仕事でインタビューしたことがあるって、そんなに凄いことか?
実は本文中にさらりと「ジョブズにインタビューした時に」くらいに書いておくのが正解のような気がするが、きっとこういうことを誇示したくなるだけの人物なんだろうなあ、ジョブズという人は、と深読みして納得してみる。
さて、先ほども書いた通り、ジョブズの驚くような奇行が紹介されている訳ではないが、順を追ってきれいに整理して書かれているので読みやすい文章である。
僕のようにマックとほとんど接点がないまま来てしまった人間には知らなかった話も多く、デザインにこだわり、プレゼンに凝り、徹底的な秘密主義とサプライズ作戦でここまでのマック帝国を築いてきたエピソード群はなかなか面白い。歴代キャッチコピーを並べた第4章もなかなか楽しいものがある。
ただ、昔からのマック・ユーザがこれを読んだらどうなんだろう? たぶん物足りなかったり、異論があったり、いろいろあるのだろう。そういうこだわりのマック・ユーザの姿が脳裏に浮かんでくる。
そういうユーザってホントに幸せだなあという気がするし、ジョブズってそういうユーザのことがよく解っているのだろうなあ、という気がする。そこがジョブズの凄さだし、この本はそのことをちゃんと描いていると思う。
僕なんか長年のウィンドウズ・ユーザだけどビル・ゲイツになんか全然敬意を持ってないもんね。
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