映画『隠し砦の三悪人』
【5月11日特記】映画『隠し砦の三悪人』を観てきた。
樋口真嗣という人はこないだまで単なる特撮係だったのに、ひょんなことからか何かの間違いでか、ここ何年か映画監督をやっている人だ。でも、映画と言うのはそんなに甘いもんじゃないからね。こういう人は誰かの下で特撮係やってたほうが良いのになあ。多分特撮部分以外にそもそも目が向かない人で、台詞とか演技とかカメラワークとかまあ何でも良くて(と言うか、違いも判らなくて)、あっちでドッカーン、こっちでバゴーンとなって初めて、ああ、いい映画撮れた、みたいなこと言ってる人なんだろうなあ
なんてことを考えながら観に行ったので期待度は極めて低かったのだが、意外に楽しめた。
ということはやっぱり素材が良いということか、と思ったら、黒澤明のオリジナルからは一部の設定だけ借りてきて全く別物に仕立ててあるとか。で、その書き換えをやったのが劇団☆新感線の座付作者・中島かずきで、なるほどそう言われてみるとこりゃ劇団☆新感線かもしれんという面白さだった。
僕は黒澤明に全く興味がなくてほとんど観たことがなくて、(TVででも)通して観た映画は1本もないのか、1本くらいあるのか、それさえちゃんと憶えていないくらいだから、原作とどこがどれほど変わっていても別にどうだって良いのだけれど、世の中黒澤崇拝者が多いからなあ、そういう人たちはどういう評価するんだろうか?
まあ、そんなこと関係なく観て割と面白かったよ。
役者は皆良かった。阿部寛も宮川大輔もよくはまってた。如何にも時代劇の悪役というタイプではなく椎名桔平を持ってきたのが良かった。そして、長澤まさみの泳ぐ眼。
それから松本潤。僕はこの人、TV『花より男子』まではほとんど知らない存在だったんだけど、こいつはなかなか良いね。多分この先、仮にジャニーズ事務所が倒産しようとも本人がよぼよぼの年寄りになろうともちゃんと俳優として生き残っているだろうと思う。
脇もなかなかの役者揃いで、筆頭が名優・國村隼。高嶋政宏の無能な男色侍と言い、誰だか分からないくらいにメイクした甲本雅裕と言い、あとからキャスト見ておいおい KREVA かよ、とか、新感線ブッキングの古田新太・橋本じゅん・粟根まこと、ついでにそとばこまちの生瀬勝久、長澤と東宝シンデレラ抱き合わせの黒瀬真奈美(『ラフ』でも同じ抱き合わせだったけど、芽が出ないねえ)とか・・・。
まあ、なんだか顔のどアップが多いなあとは思ったが、まあ、時代劇らしくて良いか。
ただ、ひとつ、その辺が僕が時代劇をあまり好まない所以なんだけど、姫が身分制度の矛盾に気づくという流れは、現代社会に生きている我々にとっては不思議はないが、現実にはめったにありえない設定だと思うよ。
物心ついた時から携帯使ってる世代に携帯電話の弊害なんて思いつかないのと同じように、いや、それよりももっとハードル高いと思う。侍は生まれた時から侍、姫は生まれた時から姫なのであって、それを疑う思いが生まれないからこそ社会改革はおいそれと起こらないのである。そのことを無視して時代劇の登場人物にこういう近代的な思想を注入するのは僕はあまり好きにはなれないなあ。
ただ、まあ、そんな堅いこと言わずに見ていると、よく練れたお話でちっとも飽きないし、手に汗握るしマツジュンの台詞に目頭が熱くなったりもする。阿部寛が強すぎるんだが、まあ、時代劇のヒーローというのは1人で百人くらいは斬り殺す必要があるのでどうしても不死身になっちゃうもんです。
樋口監督、『日本沈没』よりは腕上げたなあ、というのが僕の偽らざる感想(もっとも掴んだ脚本家が良かったのかも)。
で、パンフ見てたら長澤まさみのインタービューが載ってて、彼女は決して露骨にそういう言い方はしていないのだけれど、僕が偏見を持って読むと「樋口監督はやたらと怒鳴らせるだけの無能監督だったので自分で考えて調節した。監督ではなくてカメラマンの江原さんのアドバイスに助けられた」という風に読める(笑)
ま、樋口監督、この出来に気を良くして調子に乗りすぎないこったね(笑)
あと、シーンの変わり目で意味のない DVE 使ってみたり、刀と刀がぶつかったところにCGで火花散らしたりするのが樋口監督のセンスの悪さだと思うなあ(笑)
ところで、ジョージ・ルーカスが黒澤の原作を観て、登場人物の農民コンビ(樋口版では金掘りの松本潤と木こりの宮川大輔)から C-3PO と R2-D2 を作ったとは知らなかった。しかし、みんな黒澤明が好きだねえ。
ところで「三悪人」って誰のことなの?
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