映画『うた魂』
【4月26日特記】 映画『うた魂』を観てきた。
いやあ、本が素晴らしいですね。栗原裕光と監督の田中誠による共同脚本。
栗原はまさにこの作品でシナリオ・コンクールのグランプリを獲って出てきた人。
田中監督は『タナカヒロシのすべて』で脚本・監督デビューした人。この映画、ちょっと気にはなったんだけど、結局見ないままで終わってしまったのだけど、今からでも見たくなったなあ。
合唱って、歌ってる時の顔が変だとか、選曲も妙だとか、普段我々が思っていることをそのままテーマにストーリーを作り台詞に組み込んだ栗原の才能に脱帽である。
台詞回しも非常に自然で(いかにも女子高生っぽかったり)、しかもストーリーに対して無駄なく有機的に機能している。ガレッジセールのゴリが率いるヤンキー合唱部なんて秀逸なアイデアだと思うし、しかも、このジャスト・ワン・アイデアで引っ張りすぎないところが、ちゃんとドラマを構成できている秘密なのである。
役者や演出という面から見ると、主演の夏帆にはちょっと大げさ目のコミカルな演技をさせておいて、周りは結構固く押えている。
娘の恋愛を心配する父親(利重剛)とか、木彫りをする祖父(間寛平、職業なのか趣味なのか分からんがともかくこの木彫りをするというところが後のストーリーに活きてくる)とか、コーラス部を取材にくるケーブルテレビのクルー(ともさかりえ、田中要次、山中崇)とか、脇役の設定にも全て無駄がなく、進行上の意味を持って機能している。
これは実際に観て確かめてもらうしかないのだが、脇役のひとりひとり、台詞のひとつひとつが単にストーリーに花を添えたり味付けしたりする要素に終わるのではなく、物語を構築して行く上で欠かせないエンジンとなっているのである。
小さなエピソード、大きな事件、それぞれが計算通りのところにぴたっと嵌った感じの台本である。台詞が上手いから笑いを取るべきところでちゃんと笑いが取れる(間の取り方も良かった)。なんというスムーズな展開か!
夏帆を妬む少女(恋敵でもある)岩田さゆりが如何にも「らしく」て良い。憧れの男子生徒である石黒英雄のとぼけた味も良い。そして、『放郷物語』『彩恋』『フラガール』で次々と印象に残る役を演じてきた徳永えりがここでもキーとなる副部長の役(ピアノ弾けたんだね)。
で、なんと言っても薬師丸ひろ子ですよ。いやあ、おばさんになってもいい女優です。巧いねえ。舌を巻く巧さ!
で、また元に戻って何度も書いて申し訳ないけど、薬師丸ひろ子がそうなら、脚本も舌を巻くほどの巧さ。やっぱりそこに尽きる。演者の好演は副産物に過ぎない。
脚本家の卵たち向けの教材に使えば良いのではないかと思うほどよく練れて巧く繋がった脚本。で、良い話なんだよなあ。あまり大げさになり過ぎずに程良いところで終わるところにまた好感が持てる。
音楽映画っていうのはともすれば最後に音楽持ってくれば盛り上がる(もちろんそれに失敗するケースもあるのだけれど)ということに安易に縋りついてしまいがちなのだが、この映画は音楽が完全に脚本の1つの道具・要素になっている。本が映画のすべてを制御している感がある。
それほど素晴らしい脚本。うん、センスも非常に良いし、今年観た邦画の中では間違いなく一番の出来の脚本だと思う。
★この記事は以下のブログからTBさせていただきました。
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