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Saturday, April 05, 2008

いつものことだ

【4月5日特記】 朝7:20母から電話で叩き起こされる。

「えらいこっちゃ!」──いつもの台詞。

さて、今日は何を盗られたと言うのかと思ったら、「入れ歯」。
多分、昨夜いつもと違うところに仕舞って、それを忘れてしまったのだろう。

しかし、それにしても今まで盗られるのは財布か急須かのどちらかだったのに、選りにも選って入れ歯かよ!

誰がそんなもん盗るか?
そんなもん盗ってどうするっつーの?
なんでそんなもん盗るの?

──というのが我々のまっとうな発想だろうが、認知症の母には通じない。

「なんでって、嫌がらせに決まってるがな!」
認知症に特有の物盗られ幻想と被害妄想が結びついている。

母はある種の老人ホームみたいなところにいるのだが、自分の部屋にはちゃんと施錠している。なのにどうして寝ている間に入れ歯を盗まれるのか、と言いたくなるのが我々の発想だが、母は寝る時に施錠しているという記憶がないのでどうしようもない。

それに施錠すると怒鳴られると常々思いこんでいる(その割にはいつもちゃんと施錠しているのだが)。

施錠して怒られるくらいなら、もともと部屋に鍵がついてないか、つけていてもその鍵を渡してもらえないかどちらかのはずだ。ちゃんと鍵を預けらている訳だから、施錠して怒られる訳がない、というのが我々の発想だが、認知症の母が一度思い込むと、我々がどんなに説いても、その思い込みは覆らない。

それよりも、最近は首から鍵をぶら下げているのだが、その鍵が何の鍵であったか思い出せないらしい。

でも、在室中は首から下げた鍵を使わずともドアの金具を回せば良いだけなので、かなりちゃんと施錠している。

にも拘わらず、誰がどうやって忍び込んだの? というのが我々の発想だが、もう誰にも母を論理的に説き伏せることはできない。

「寝てる間に入って来たんや。全然気ぃつかんかった。多分入ってすぐに催眠スプレーを撒いたんやと思う」

とスパイ小説並に大がかりなことになってきたが、自分の記憶が欠落するために辻褄が合わなくなった部分を弥縫するためには、母の脳はどんな空想の産物でも定着させる。

結局荒れ狂って喚き散らして、「なんで自分だけがこんな嫌がらせを受けるのか」と嘆きまくって、「ふん、ふん」と相槌を打っているしかない僕に対して「あんたは機械か。『ふん』としか言わん」とまた憤慨して、ウルトラ不機嫌の中ブツッと切った。

充分時間をおいて、午後からその施設の職員の方に確かめてもらったら、母は「私の勘違いでした。ありました」と言ってたとのこと。

母に電話して、「入れ歯あったらしいな」と言うと、きょとんとして「何のこと?」。「朝電話くれて、入れ歯盗られたって大騒ぎしてたやん」と言うと、馬鹿にしたように笑って「そんな電話してないわ」。

ま、いつものことだ。ひょっとすると僕に電話してきたとき、洗面所のコップの中のポリデントの溶液の中に沈んでいるはずなのにどっかに消えてしまった彼女の入れ歯は、実は彼女の口の中にあったのかもしれない。

ま、いつものことだ。いつものことだ。

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