『犬猫』
【3月16日特記】 WOWOW から録画しておいた『犬猫』を観た。井口奈己監督作品。
『人のセックスを笑うな』を観て、無性に彼女の前作が観たくなったのである。PFF アワード企画賞を受賞した2001年の 8mm のバージョンではなく、彼女自身がそれをリメイクした2004年のバージョンである。
やっぱりここでもカメラはほとんど固定。そして次のカットに変わるまでの間がやたらと長い。そして、ここでも見つけた:走ってる藤田陽子をカメラが追い越してしまって一旦藤田がフレームアウト、暫く誰もいない道をカメラが走って、その後追いついた藤田がフレームイン、という手法──『人のセックスを笑うな』の自転車のシーンと同じだ。
ここまで『人のセックスを笑うな』と共通のカメラワークを見せられると、「意外にこの監督、底が浅いのかも」という気もしてくる。
『人のセックスを笑うな』と違うのはあまり長廻しを使わずに適当にカットが変わること。そして、階段を駆け降りる藤田陽子と手すりを滑り降りる西島秀俊みたいな非常に面白い構図も見せてくれた。
ただ、オール・ロケで遠景が多く、なのに基本的に同時録音で、声が聞き取りにくいという恨みはある。
明日から中国に留学する小池栄子。留守宅(一軒家)を友だちの榎本加奈子に任せることにする。そこへ2人の友だちである藤田陽子が同棲相手の西島秀俊に愛想をつかせて転がり込んできて、榎本と藤田の2人暮らしが始まる。
初めは筋が却々動かなくて、カメラワークも前述の通りゆっくりなので、見ていて結構しんどい映画ではある。でも、台詞は面白くて、その喋り方からするとあまり詳しい台本を書いていないか、自由にアドリブを許しているかのどちらかで、そのおかげでとても自然である。
榎本はバイト先のコンビニの同僚・忍成修吾のことが好きなのだが、なかなか思いを伝えられない。そして藤田の留守に西島が訪ねてくる。どうやら西島は榎本の元彼でもあるらしいのだ。そして、どうやら藤田と榎本は昔から同じ男を好きになる傾向があったらしい。
──その辺の事情が明らかになってから、映画は徐々に滑り出して、俄然観ていて面白くなってくる。
榎本と藤田のシーンでは大雑把な藤田と几帳面な榎本という対比で始まったのに、それぞれが西島と絡むシーンになると、藤田に対しては西島がやれ「スプーン」だの「お茶」だの「アイス食いたくない?」だのと指図して給仕させるのに、榎本は西島に対して「お腹減った」と言って食べ物を持ってこさせる。
この辺の対比はとても面白い。確かに人間の関係ってそんなもんだ。
タイトルにある通り犬も猫も出てくる。ただし、ストーリーに大きく絡むわけではない。にも拘らずこのタイトルがついているところに観客が何を感じるか?──そういう意味慎重と言うか、含蓄に溢れているところがこの映画の肝であると僕は思った。
基本的に何も起こらないタイプの映画である。でも、人間に対する観察力の鋭さを充分感じさせてくれる。いかにも『人のセックスを笑うな』の前作って感じの映画である。
さて、では次の映画はどうなんだろうか?
うむ、彼女にとっては次が本当の正念場になるかもしれない。
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