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Friday, February 08, 2008

映画『グミ・チョコレート・パイン』

【2月8日特記】 映画『グミ・チョコレート・パイン』を観てきた。

本当は、あまり気乗りはしないとは言えタダ券があったので『結婚しようよ』を観るつもりだったのだが、直前に知人による酷評を読んで、急遽予定変更。

やっぱりタダ券があるからとか、今日で終わってしまうからというような理由で映画を選ぶべきではない。券をくれた人に申し訳ないというのも無用な気遣いだ。もらったチケットをどぶに捨てても、お金を払って観たい映画を観るに如かず。

で、この映画に変更して本当に良かった! 拾い物の傑作だった。

映画が始まる前にロビーのポスターを見て「おっ、監督、外人やんけ!」と言ってた少年2人組がいたのが妙におかしかった。で、扉が開いて入るなり、同じ少年が「狭っ」と驚いていた。単に黒川芽以のファンなのかもしれないけど、こういう演劇にも映画にも疎い少年たちが見に来てくれたことが、なんか嬉しかったなあ。

で、どうだったんだろう? 君たちの時代(つまり「今」だ)とは随分違っていたと思うのだが、普遍性はあったんだろうか?

僕たちの青春時代とも少しずれているんだけど、僕ら、もう少し前の世代には充分普遍性があったんだよ。

青春はやっぱ、音楽だった。映画でもあった。そして僕らの時代は(そして、このグミチョコの時代も)マイナー志向、アンダーグラウンドに対する憧れがあった。そして、恋だ。そして性の目覚めだ。焦りだ。バツの悪さだ。間の悪さだ。不器用さだ。そして妙な真面目さだ。

笑って笑って、そして(実際に泣きはしなかったけど)本当に泣ける映画だった。

なんと言っても脚本が良かった。脚本も KERA だったのだが(こんな脚本外人に書けるかよ?)、全然滑っていない。笑うべきところが全部きっちり笑える。

筋は突飛であったり、都合よく運び過ぎたりして必ずしも必然性はないのだが、そこにしっかりと説得力がある。痛々しくて切なくておかしいのである。

例えば、2007年のタクオ(甲本雅裕)の家で警官たちを前に笑い転げるシーン。あそこでなんで笑い出すのか説明はつかないが、でもあんな風に全員で笑い始めると止まらないことってよくある。

そして、輪ゴムを噛んで水を飲むばかばかしさ。今の感覚ではありえないけど、でも若い頃ってああいうばかばかしいことを本気でやってみたもんだ(今の若い人はしないんだろうけど)。

ホラー映画に自主映画、ノイズバンド、GOROやらスコラやら、おニャン子(「これじゃまるで秋元康だ。ロックじゃない!」)やら、懐かしい80年代中期の文化(そう、サブカルなどという言い方があった)が折り重なってキューンとくる。

12kg 太ってダサダサ高校生・賢三役の石田卓也がいて、アイドルの黒川芽以が同級生の美甘子の役で、むしろ「今考えたらどうしてああいうのを可愛いと思ってたんだろ?」風に映っていて、それが妙にリアルで、そして脇を固める柄本佑が素晴らしい演技をしてる。

そして、2007年の中年の賢三(大森南朋)が登場してそこから過去を振り返るというのは大槻ケンヂの原作にはなくてケラリーノ・サンドロヴィッチのオリジナルらしいのだけれど、これが非常によく効いてる。ともかく描いてる奴が適度に醒めてないとこういう話は撮れないだろう。

「あなたのせいよ」と書き残して自殺してしまった美甘子。彼女ともう少しでいいところだったのにそこまでたどり着けなかった賢三。美甘子が語る「人生はグミ・チョコレート・パインだと思う」という台詞が活きている(僕らの時代の大阪では「グリコ・チョコレート・パイナップル」でしたけど)。

土に埋めた addnis のバッグや父から譲られた Gibbon のギター、8mmカメラ、学校の机と彫刻刀、雑誌やTVでのUFOの話題、おしるこ缶など小道具がいちいち効いて巧く機能している。

KERA の許で働いているのはいずれもあまり大したキャリアのないスタッフみたいだ。意図的な部分も含めて画がブツブツ切れるのは少し気になったが、映像作品としてもそこそこの頑張りではないかな。

個人的には、ムーンライダーズの鈴木慶一扮する写真屋が「頑張れ、若者!」と叫ぶところがとてもイミシンで感慨深かった。

踏切のシーンも良かった。愛の言葉を投げるべきところで別のこと言ってしまってチャンスを逃してしまうというのはよくあるドラマの構造なのだけれど、たいていの場合は全然無関係なばかげたことを口走ってしまうという設定である。ところが、このドラマで賢三が言ったのは、今言うべきことではなかったかもしれないが、決して無関係でもばかげてもいない、とても切実な言葉だった。

閉まる遮断機に遮られるというのはよくあるシーンだが、ここでは美甘子は自ら遮断機を潜って去って行く。そこには哀しいほどの決意がある。そもそも「美甘子」という名前に萌えるよなあ。

ともかくホンが秀逸だった。 良い映画でした。脱帽!
ちなみに2007年度キネマ旬報ベストテンでは『幸福な食卓』等と並び第78位でした。

★この記事は以下のブログからTBさせていただきました。

EDITOREAL
ラムの大通り

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Comments

TBありがとうございました。

あの深夜映画に踏み切り。
この映画は、抱きしめたいほど好きです。
「キネマ旬報」ではそんなに下位でしたか。
まあ、そういうものかもしれませんね。

Posted by: えい | Saturday, February 09, 2008 12:31

> えい様
コメントありがとうございました。
そう、「抱きしめたいほど好き」って言い得て妙ですね。僕もホントにそんな感じです。

Posted by: yama_eigh | Saturday, February 09, 2008 13:08

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