『プラダを着た悪魔』
【1月4日特記】 昨夜 WOWOW で放送していた『プラダを着た悪魔』を観た。テレビで観るにしてもハリウッド映画(と言ってもロケ地はNYとパリだが)は久しぶりだ。
妻は「次々出てくる洋服が凄い」と言っていたが、ま、僕のほうは残念ながらそういう楽しみ方はできない。でも、単純に映画として(つまり、ファッションの要素を抜きにしても)とっても面白かった。
ブランドものファッションには何の興味もなかったアンディ(アン・ハサウェイ)が超一流ファッション雑誌「ランウェイ」のカリスマ編集長ミランダ(メリル・ストリープ)の第2秘書の採用面接を受けに行く。みんなにファッション・センスをぼろかすに言われながら、何故だか採用されてしまう。
それからアンディは仕事に目覚め、ファッションに目覚め・・・というお話。
過去に短期でもカリスマと言われる人間の下で働いたことがある者には身につまされる話である。その辺りのことが大変上手に描いてある。
まずカリスマは往々にして公私混同して、いろんな雑用を部下に命じる。
それから、カリスマはいろんなことを突然変更する。実はそれらは決して単なる気まぐれなどではなく、彼/彼女の理念や計算に基づいたものであるのだが、そのことがはっきり部下にも見えれば部下も命がけで達成に向けて走り出すのだが、残念ながらカリスマはそんな親切な説明をしてくれないので、突然の変更や追加を言われた部下はただただ右往左往するのである。
そして、カリスマは大体において部下を褒めない。もっぱら罵倒派である。できたからと言って決して褒めない。小さなことでもできないと例外なく罵倒する。
語弊があるので誰のことかは書かないが、僕もそういう人の下で働いた経験がある。死にそうな気分になる。だが、もしそれが本物のカリスマであれば、仕事の面では大いに人を育てる。
そういう人物を、メリル・ストリープがまさに怪演している:ひたすらアン・ハサウェイをいたぶる。しかし、いつの間にか彼女を育てている。
というわけで、これはアンディが育つ物語、仕事とファッションとの両面における成長物語なのである。
で、そこまでは良いとして、問題はこの話をどう締めるかである。
一生懸命頑張って出世しましたとさ、ではあまりに芸がないし、最後には言いたい放題言って椅子を蹴って辞めましたとさ、ではあまりに残ない。
その両極の間で非常に良い終わり方をこの脚本家は描いている。仕事を覚えるというのはこういうことである。何かを吸収するというのはこういうことである。いや、大げさに言うなら生きて行くというのはこういうことである。
ところで、主人公は最初着ているもののセンスをけちょんけちょんに言われるのだが、僕が見た感じでは、まあ、あの青いセーターは確かにちょっと野暮ったいかなとは思ったが、面接の日の格好なんか全然OKなんだけどな。
今さら言うまでもないけど、僕も何かの間違いでファッション業界なんぞに身を投じたらえらいことになってしまうなあ、と寒気を覚えたのでありました。
ところで、その後ひき続いて WOWOW でやっていたジョルジオ・アルマーニの来日時のドキュメンタリー『ビハインド・ザ・ファッション──モードが誕生する、その瞬間#15』を見ていて、この映画の雑誌名ランウェイがファッションショーでモデルが歩く道のことであることを初めて知った。
そして、この番組のナレーションが宮﨑あおいであることを開始後すぐに気づいた自分を誇らしくも思った。閑話休題。(宮崎あおい)
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