『善き人のためのソナタ』
【12月8日特記】 WOWOW で録画しておいたドイツ映画『善き人のためのソナタ』を観た。評判が良かったので観たかったのだが、関西では上映期間が短くて見逃してしまった作品だ。
ベルリンの壁が崩壊する少し前の東ドイツ。国家保安省の役人である主人公ヴィースラーが劇作家ドライマンを盗聴する任務に就く。
それまでは血も涙もないような、拷問に近い取り調べで多くのスパイを監獄に送ってきた彼だが、劇作家とその恋人である女優クリスタの暮らしを盗聴するうちに、なんとなく情が移ってきて、いつのまにか報告書にも手心を加え始めるヴィースラー。
やがて劇作家が書いた暴露文章が西側に流れ、当然の如く疑いの目は彼に向けられ、捜査の手が伸び、別件逮捕されたクリスタが保身のために恋人ドライマンを裏切ってしまう。ところが、ヴィースラーの工作によってドライマンは難を逃れる。
とまあ、ここまでは見ていれば想像のつく筋である。
だが、これが非常に淡々と描かれる。これは日本の感性ともハリウッドの感性とも全然違う。
「これを聞くと悪人になれない」という"善き人のためのソナタ"をドライマンがピアノで弾くのをヴィースラーが盗聴器越しに聞いてそこから少し任務から逸脱し始めるあたりの怖さ。
罪悪感に駆られたクリスタが家を飛び出したところで車にはねられて死んでしまうあたりのあっけなさすぎる哀しさ。
そして、画策がばれて左遷されたヴィースラーの暮らしと、それに続く壁の崩壊=東ドイツの消滅、そして、その後も鬱々と続くヴィースラーの生活。
この辺りの描写が「淡々としている」とも「抑えに抑えた」とも言える。それが余韻を産む。
たまにこういうドイツ映画を見るのも良いなあと思う。考えるところも感じるところもある。──いつもは決して思いつかなかったようなところに我々を運んでくれるのである。
とても意味のある映画だった。
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