『リボルバー』佐藤正午(書評)
【12月22日特記】 出張の際に空港で買って機中で読んだ。最近出た本かと思ったら、なんと『永遠の1/2』『王様の結婚』に次ぐ佐藤正午のデビュー第3作だった。
主人公の少年が拳銃の構造を調べるためにインターネット上を検索するのではなく、わざわざ図書館に行く辺りが時代を感じさせる。
主人公は高校生の吉川(きっかわ)。たまたま夜の公園で女がやくざ者にいたぶられているところを目撃してしまう。そして見ているところを見つかって彼もまたそのやくざ者に殴られて前歯を折られた。──あいつこんど会ったら殺してやる。吉川少年はそう思う。
その彼が拳銃を拾う。警官を殴り倒して拳銃を奪った男が怖くなって捨てた実弾入りである。
奪われた警官は清水。彼はこの事件を機に警官を辞める。ところがひょんなことから拳銃を手に入れた吉川少年がやくざ者を追って北海道に飛んだことを知り、彼もまた北海道に。そして吉川のガールフレンドである佐伯直子も同行する。
よくまあこんな単純なモチーフで小説を書き始めるなあと思う。けりのつけようにあまりバリエーションがなく、話の展開が見えてしまう。
少年はやくざ者に多分追いつくだろう。その時彼は拳銃をぶっ放すのかぶっ放さないのか。それだけが焦点だ。そして清水と佐伯はどの時点で彼らに追いつくのか?
そのわずかなサスペンス(未決の事態)でもって徹底的に読者を引っ張る。やはり佐藤正午という人は非常に筆の立つ作家だと思う。
台詞に息吹きがあり人物造形がくっきりしている。だから、このシンプルな設定が活きてくるのである。ロード・ムービー風の展開の裏側には場所と時間を巧みに動かす佐藤の筆致が隠れている。
そして何よりも特筆すべき点は、上述したメイン・ストーリーとは全く関係のない事情で、たまたま同じ時期に同じように西海市から北海道へと渡ったギャンブラー2人組(蜂谷と永井新)を微妙に絡ませたところである。これがなんとも言えない味になっている。
大した話ではないが興味を殺がれることもなく一気に読めて、暇つぶしにはもってこいの小説だった。そして暇つぶしと言ってしまうには些か気が引けるほど巧い小説である。
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