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Monday, October 08, 2007

映画『サウスバウンド』

【10月8日特記】 映画『サウスバウンド』を観てきた。

世の中には監督が誰なのか知らないで映画を観る人もいるらしいが、僕は監督で選ぶことが多い。この映画も、目当てはトヨエツでもなければ奥田英朗による原作でもない(原作小説は未読である)。目当ては森田芳光である。

『の・ようなもの』以来、僕は森田映画には失望させられたことがない。とは言っても森田芳光の作品を全て観てきた訳ではないので、ひょっとすると失望しそうなものを巧みに避けてきただけかもしれない。

実はあるブログでこの映画をあまり褒めていない記事にも出くわした。どうしようかと思ったのだが、でも、観て良かった。本当に良かった。

色合いと言い、映画の運び方と言い、森田芳光らしさがほとんどない映画だなあ、というのが最初の思いだった。唯一森田映画らしいのは伊藤克信が出ていることくらいか?(笑)

昭和40年代の話かと思って見ていたら、携帯電話が登場して現代の話だと判った。

原作との関係で言えば、読んでいない僕にはなんとも分からないのだが、パンフには「よく"原作を見事に料理した監督"などというフレーズが使われるが(中略)蓋を開けてみると、映画『サウスバウンド』は原作通りのようで原作通りではない、完全なる森田作品」とある。

父・一郎(豊川悦司)は元・三里塚闘争の活動家。母・さくら(天海祐希)もまた同じ活動家で、かつて裏切った仲間を刺して半年間刑に服していたことがある。不幸にして、その2人を両親に持ってしまった子供たち──洋子(北川景子)、二郎(田辺修斗)、桃子(松本梨菜)の東京での生活を、中でも小6の二郎を中心に描いたのが前半。

二郎の暴力事件(単なるケンカ)をきっかけに、母が「東京を捨てて西表島に移ろう」と言いだして、本当に行ってしまうのが後半。

物語の中心は父・一郎である。破天荒、と言うか無茶苦茶。

権力や官僚が大嫌いで、公のルールに従わない。国民年金の保険料徴収に来た区役所の職員(吉田日出子)に「誰がそんなことを決めた?」と噛みつき「じゃあ、国民をやめる」と嘯く。息子の修学旅行の積立金が高いと言って学校に殴り込み(いや、実際には話し合い)に行く。偉そうなこと言ってる割にはあんまり仕事もしていない感じ。でも弁だけは立つ。

客観的に見て一郎の論理は完全に破綻している。

だが、(ここがポイントである)論理が破綻しているからろくでもない父親だということではないのだ(もちろん、逆に論理は破綻しているが立派な父親だということにもならない)。

この映画は胸にガツンッと来た。それは僕が普段気がつかないことを教えてくれたのではない。僕が普段から思っていることを完全に補強してくれたのである。だから僕の心にガツンッと来た。

僕がいつも思っていること:

  • 部分は全体ではない。
  • 1つの部分で全体を判断してはいけない。
  • 全体は全体として捉える必要がある。

論理が通っていれば立派な人、破綻していればダメな人──ではない。権力に尻尾を振る役人はダメな奴、それに抵抗する人間こそがあるべき姿──ではない。

西表島の校長先生の話にしびれた:

大人には良い部分と悪い部分がある。あなたたちはそんな「部分」に振り回されてはいけない。そして大きくなったら自分の頭でものごとを判断できる人間になりなさい。(正確な表現は忘れたけど、そんな内容だった)

最後に近いシーンで、一郎が子供たちに言うのにもグッと来た。

みんなお父さんを見習うな。

(そんなことを言える親がどこにいる!? いや、自分を卑下している親なら誰でも言える。でも一郎は自分の言動には100%の確信を抱いている。その上で自分を見習うなと言うのである。そこの違いを見逃してはいけない)

お父さんは極端だからな。でも、汚い大人になるのだけはやめてくれよ。違うと思ったらとことん闘え。負けてもいいから闘え。他人と違ってもいい。孤独を恐れるな。理解者は必ずいる。

理解者ってお母さんのこと?

・・・そうだ。
(横で天海祐希がデレデレ照れている)

幼い次女役の松本梨菜を筆頭に、トヨエツも天海も、西表島の警官役の松山ケンイチも、校長先生役の与世山澄子も、出てくる人物がどことなく、いや、どうしようもなく魅力的なのである。

これは原作の力なんだろうか?

いや、この構成、この画、このテンポ、これはやはり森田の実力に負うところも大きいと思う。

原作が読みたくなって bk1 に発注した。久々にガツンッと来る物語だった。

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Comments

色合いといえば、ずっと森田組の撮影助手をつとめていた沖村志宏さんをカメラマンに抜擢してましたね。
森田さん自身が人を育てることに長けた人物だからこそ、こういう内容の映画に深みを入れることができるのかもしれませんね。いい映画でした。

Posted by: しんにく | Tuesday, October 09, 2007 13:22

> しんにくさん

そうなんですよね。まずいつもと色合いが違うような気がして、カメラマンの名前確かめたら知らない人だったので何者だろうと思ったら撮影助手からの昇格でした。
普通沖縄となるともっと鮮烈かつ多彩な色合いで攻めてくるのが映画というものだと思うのですが、これはやっぱり意図して押えたんでしょうね。

Posted by: yama_eigh | Tuesday, October 09, 2007 14:20

TBさせていただきました。

なかなか好感の持てる作品だと思いましたが、観客は少なかったです。

Posted by: タウム | Tuesday, October 23, 2007 01:03

> タウムさん
コメントありがとうございました。ただ、TBできてないんですけど・・・。

Posted by: yama_eigh | Tuesday, October 23, 2007 21:12

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