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Wednesday, October 31, 2007

見えないものを見ている

【10月31日特記】 認知症の母に幻覚症状が出てきた。

以前から、実際には起こらなかった、経験していない事柄が何故か記憶として定着してしまっていることはあった。だが、それは多分、今辻褄が合わなくなっている状況を埋め合わせるために脳が後から作り上げた偽の記憶である。

ところが最近は(後からではなく)リアルタイムで見えないものを見ているようである。

例えば僕の目の前で目をキョロキョロして宙空を追っている。何かと思って訊くと、小指の先くらいの大きさの黒いものが飛んでいると言う。

それから先日は「自分が知らないうちに、湯沸しポットの表面に赤い字でぐちゃぐちゃに落書きがしてある。他の人に見せたが誰もが見えないと言い、自分はキチガイ扱いされている。見に来て汚名を晴らしてほしい」と言う。

僕が行ってもそんなもの見えるはずがないが、仕方がないので行く。

「ほら、ここに!」「ここにもこんなに!」と指を差す。「なんと書いてあるの?」と訊くと「読めない。数式やら文字やらいろいろ」と言う。それにしても母にも1字も読み取れないのは妙である。

ところで僕には読み取れないのではなくて、全く見えない。

「なんでこれが見えへんのや!? ほら、ここ、見てみい!」「真剣に見てないから見えへんのや!」と怒るが、怒られても見えない。

一般に認知症患者に対しては肯定も否定もしない対応が大事だと言われているが、最後の砦として呼ばれた僕がそういう曖昧な態度で逃げ切るのは難しい。刺激しないように気をつけながらも見えないものは見えないと答える。

人間は目ではなくて脳でものを見ているのだということを痛感した。

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