映画『クワイエットルームにようこそ』1
【10月20日特記】 映画『クワイエットルームにようこそ』を観てきた。
さて、うむ、評価するのは難しい。
何かの間違いで(と本人は思っているが周りはそうは受けとめていない)精神病院に担ぎ込まれ2週間に渡って拘束される女性の話。主人公の雑誌ライター・佐倉明日香を演じるのは内田有紀。
こういうある種極限的な設定を与えられると、観ているほうはついつい大きな感動や劇的な教訓を期待してしまうのだが、監督の松尾スズキは周到にそういう作用を避けている──という風に僕には見えるのである。
映画を見ている最中も見終わってからも、観客はそのどちらも得られない。即ち感動もしなければ、教訓も見出さない。そういう意味では「なんじゃ、こりゃ?」の映画なのであって、そういう意味では一刀両断にしてしまっても良い映画なのである。
だが、現実はそれほど一直線なものではなく、映画もまた一筋縄では行かない。僕はその両義性(と言うか、むしろ多義性)がむしろ巧みに仕組まれたものだと感じる。だから単純に貶せない。
観ていて何よりもまず感じたのは、この映画は個人プレーの戦場だなあということ。それぞれの役者がウルトラ級の個性を発揮していてお互いに絡んでいる。出演者がいちいち凄い。そして演技の出来が良いのである。
まず、明日香の同棲相手で、「言われるがまま」の構成作家・鉄雄役の宮藤官九郎。今まで見た宮藤官九郎の中で一番出来が良かったように思う。
それから鉄雄のパンクな弟子で、いつもハイテンションのコモノ役の妻夫木聡。
病院の患者たちでは、拒食症のミキ役の蒼井優。同じく拒食症でセレブ娘のサエ役の高橋真唯。過食症の元AV女優で新入りの患者を「食い物」にしている西野役の大竹しのぶ。同じく患者で頭を燃やすチリチリ役の馬渕英俚可。退院して行く栗田役の中村優子。いつも退院できない金原役の筒井真理子。
そして冷酷・鉄面皮のナース江口役のりょう。もう一人のナース山岸役の平岩紙。医者役では、いい加減な松原医師に庵野秀明、レズビアン(?)の白井医師に徳井優、内科医に漫画家の河井克夫。
明日香の前夫役には塚本晋也。あと、チョイ役で平田満やらハリセンボンやらしりあがり寿やら俵万智やら。
明らかに松尾人脈である宮藤や平岩は別にして、今松尾スズキというブランドでこれだけの役者を集められるということなのだろう。
デビュー作の『恋の門』というシュールなコメディを見たとき、映画としてはどうってことないのだが、でも、なんか松尾スズキって劇作家や脚本家や俳優としてだけではなく映画監督としても才能がありそうで、次回作が楽しみだなあと思った。そして長編第2作である今回、またしても同じことを思ってしまった。
パンフを読む限りでは、どうやらこの映画を見て深く感動したりショックを受けたりする人も少なくないようだ。ふーん、そうなのか。僕はそれほどのめり込めなかった。むしろ知的に面白かった。岡林明宏のカメラワークも冴えているなあと思った。
でも、このネタは多分舞台のほうが良いのではないか(俵万智は逆のこと書いているが)。そして、小説のほうがさらにもっと感動的なのではないだろうか。
ともかく一筋縄で行かない作品。それが松尾スズキの魅力なんだろうと、僕は思うのだが・・・。もちろん一筋縄に見てストレートな教訓を受け取ってしまう観客もいるのだろう。それもまた映画である。
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