« 映画『包帯クラブ』 | Main | 買えたゾ!嬉Cモード »

Monday, September 24, 2007

映画『めがね』

【9月24日特記】 映画『めがね』を観てきた。

予告編を見た時からなんとなく予感はあったのだが、『バーバー吉野』、『恋は五・七・五!』、『かもめ食堂』と順調にステップ・アップしてきた荻上直子監督だが、ここに来て初めてちょっと躓いた感がある。うん、予感的中。

「何が自由か、知っている」というのがこの映画のキャッチ・コピーなのだが、この映画を観る大多数の人たちにとっては、この映画のように何日も仕事を休んでこんな遠いところ(映画の中ではここがどこなのか一切情報を与えていないけれど、ロケ地は与論島である)に遊ぶなんて無理なことなのである。

だから、これが自由な旅のあり方だと言われても、文字通り「そんなこと言われてもなあ・・・」と思うだけのことである。こんな旅をしてみると良いよと言われても、「そりゃあ良いだろうけどさあ・・・」で終わってしまうのである。

そういう意味でこれはひとつのおとぎ話である。でも、おとぎ話だからと言って、ここまで人物の輪郭をぼやかせたままというのは如何なものだろうか?

確かに『かもめ食堂』においても3人の女性たちの背景はほとんど語られていなかった。でも、あれはフィンランドだ。日本を離れてフィンランドとなるとそりゃあ何かといろいろあったんだろう、と納得してしまう遠さがある。片桐はいりが「目をつぶって世界地図を指さしたらそこがフィンランドだった」と言うのを聞くと、そんなやけっぱちの決め方するなんて、やっぱり相当辛いことがあったんだろうと思ってしまう。

そして、何よりも「かもめ食堂」で健気に働く3人を見ていると、「日本で何があったか知らないけど、それはもう良いから」という気になる。

ところが今回は日本である。しかも、仕事をせずに「たそがれて」ばかりいる。思わせぶりで中途半端な情報の断片ばかり与えられて、登場人物がそもそも普段は何をしている人なのか、どうしてこの地に辿り着いたのかがさっぱり解らない。

小林聡美は何か悲しい大事件があってここに来たのか、それとも長く苦しい環境を逃れてきたのか、単に生活に疲れてやってきたのか、その辺が見えてこない。これは他の登場人物も同じ。

大体が、このインターネット時代に小林聡美はここがどんな土地でこれがどんな宿なのか全く調べずに来たというのだろうか? そこにリアリティがない。近所にもう1軒ホテルがあることは知っているのに、周囲に観光するところなんかないということは知らないのはおかしくないか? ただ、携帯電話が繋がらなければどこでも良いという投げやりな気持ちで選んだという設定なのであれば、もう少しその背景を描いてほしい。何故携帯が繋がらないところに行きたかったのかという謎は解けないままである。

加瀬亮が小林聡美のことを「先生」と呼んでいたり、小林がもたいまさこの自転車の後ろに乗せてもらったことを市川実日子が嫉妬したり、光石研が「あのかき氷に出会わなければ僕はここにいなかった」と言ったり、そういう小出しの情報破片が映画の最後でいくつか繋がってくるのかと思うのが観客の心理である。ところが、それは放置される。

もちろん、「この人はどこで何をしているこういう人で、実はこういう事件があってここに逃れて来ていたのだ。でもここで心が癒されて」云々と、映画の中で饒舌に語り尽せとは言わない。だが、与えたヒントを全て放置したままエンディングの歌に繋げてしまうのは、自由でも余韻でもなく、観客に対する不親切というものだと思う。

でも、恐らく意識的にこういう作りにしたのだろう。決して失敗してこういう作品になってしまったのではなく、荻上監督としては狙い通りなのだと思う。そこが一番しんどいところだ。

ヒット作を出して、荻上監督はいろんなことが自由にできるようになってきたのではないかな。でも、それがひとつの陥穽なのだと思う。

例えばキャスト。恐らく彼女の好きな役者ばかりを集めたのだろう。でも、ここにはニュアンスのあるアンビバレントな役者ばかりが集まり過ぎているような気がする。それも恐らく意図したものだろう。

でも、僕は例えば光石研の代わりに松重豊だったらとか、加瀬亮ではなくて荒川良々だったらとか、余計な想像をしてみるのである。

最後に褒めるが、これは『かもめ食堂』同様に非常に雰囲気のある映画である。ニュアンスたっぷりの作品である。ただただこの雰囲気に浸りたいという人は観に行ってみたら良いと思う。かなり満足して家路につけるのではないだろうか。田舎好きの人ならなおさら良いかもしれない。

僕は都市生活賛美論者で「都会の生活はダメで田舎暮らしこそが人間らしい生活」などという考え方には与しない。はたして、こんな宿があったら行くだろうか? 残念ながらその決断をするだけの情報が、この映画にはなかったような気がする。

★この記事は以下のブログからTBさせていただきました。

本日も天真爛漫
犬儒学派的牧歌

|

« 映画『包帯クラブ』 | Main | 買えたゾ!嬉Cモード »

Comments

Post a comment



(Not displayed with comment.)


Comments are moderated, and will not appear on this weblog until the author has approved them.



TrackBack

TrackBack URL for this entry:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/110115/16556903

Listed below are links to weblogs that reference 映画『めがね』:

» めがね:悪い意味での「無印良品」的なテイスト [犬儒学派的牧歌]
★監督:荻上直子(2007年 日本作品) 京都シネマにて。 予想通り、立ち見の出る大入りでした。 ★... [Read More]

Tracked on Tuesday, September 25, 2007 at 22:55

» 【2007-133】めがね [ダディャーナザン!ナズェミデルンディス!!]
人気ブログランキングの順位は? 何が自由か、知っている。 [Read More]

Tracked on Tuesday, October 02, 2007 at 00:33

« 映画『包帯クラブ』 | Main | 買えたゾ!嬉Cモード »