『ウィキノミクス』ドン・タプスコット、アンソニー・D・ウィリアムズ(書評)
【9月12日特記】 正直言ってこの辺の理論に興味のある人にとってはあまり目新しい展開をしてくれる本ではない。ただ、上手にまとめてきれいに整理してくれている(やや長いのが欠点だが)。
紹介されている新しいモデルは7つ──1)ピアプロデューサー、2)アイデアゴラ、3)プロシューマー・コミュニティ、4)新アレクサンドリア人、5)参加のプラットフォーム、6)世界工場、7)ウィキワークプレイス。
4大原則は、1)オープン性、2)ピアリング、3)共有、4)グローバルな行動である。
僕はこの手のICT系のマーケティング論(と十把一絡げにしてしまうと怒られそうだが)の中で一番力強かったのはクリス・アンダーソンの『ロングテール』だと思う。Web2.0であれCGMであれ、あるいはこのウィキノミクスであれ『ロングテール』ほどの単純明快な説得力には欠けているのである。
この本でも、最近の世の中にはこういう傾向があるということを指摘しておいて、こういう企業が生き残り、あるいは発展しているという実例を示してはいるのであるが、では「これさえやっておけば必ずうまく行く」みたいな夢物語であるはずはなく、「淘汰により、たくましいビジネスモデルだけが生き残る」(333ページ)としている。
450~451ページにはこの本で紹介された経験則や教訓が8つにまとめられているのだが、そのうち6つが「場合がある」という記述で終わっている。
これは大変重要なポイントであって、こういうふうに書いておかないと必ず「これさえやったら成功するんだ」という安物の宗教の信者みたいな読者が現れるからである。
こうやって巧く切りぬけた企業はある。だけど、こうやれば必ず成功するというものではないのである。──それは大変正しい指摘である。ところが、逆にそういう指摘をしなければならないところが、この理論の弱さにもなっているのである。
ではそれをどう管理して行けば良いのか?
──「細かい計画を立てても意味がない」「幼稚園の先生が子供たちを管理するように、混沌を管理すべき」「ベテランの先生は、最初、子供たちに自由に振る舞わせ、その後、いい行動パターンは定着するように、また良くないパターンは定着しないように、少しずつ介入する」(456ページ)のだそうだ。
結局一番難しいところのハンドリングの仕方が読者には判らない。
でも、まあ、そこまでの一般論的経営指南を求めるのはないものねだりだろう。
僕がこの本で一番印象に残ったのは、ロス・メイフィールドの台詞として紹介されている「新しいウェブとは動詞で表すもので、名詞じゃ表せない」(75ページ)という表現である。意外にこういう細かいところに面白い表現が散りばめられていたりして、そういうものを探しながら読むのが楽しいかもしれない。
しかし、それにしても読了するのに随分時間がかかってしまった。
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