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Saturday, August 04, 2007

残る記憶と消える記憶のはざま

【8月4日特記】 母の記憶のスパンがどんどん短くなってきている(いわゆる認知症である)。

例によって何かを盗まれたと思いこんで(その多くは、盗まれるという猜疑心から自分で隠したのを忘れてしまっているだけなのだが)取り乱して僕に電話をしてくる。

僕が落ち着いて「どうした? 何を盗られた?」と訊くと、もうそれが何であったか思い出せない。

誰かに何かをされたと言って猛烈な興奮状態で電話してくる。

僕が落ち着いて「どうした? 何を怒ってるの?」と訊くと、「なんで怒ってたのか、もう忘れてしもた」。

「忘れてしもたんなら、もうええやん」と僕が落ち着いて言うと、何で怒っていたのか思い出せない憤りに加えて僕が落ち着いていることにも腹を立てる。でも、いずれにしても、そしていずれのことも、もう明瞭に思い出せない。

「思い出されへんのは、悲しいで」とがっくりと言う。

そうだろう。そんなにブツリブツリと記憶が途絶えたら、あれほど腹が立ったのに何故怒っていたかも思い出せないなんて、その情けなさはいかばかりだろう。

でも、僕は落ち着いて喋るしかない。母のパニックを宥めるためにはいつも落ち着いて喋る必要がある。「何にも盗られてないから大丈夫やで。明日行くわ」

今、母には24時間ケアしてくれる人が付いてくれている。だから、前みたいに、独りで出かけて迷子になったらどうしよう、家で倒れてたらどうしよう、火事を起こしたりしてないだろうか、などと心配する必要はなくなった。

でも、残る記憶と消える記憶のはざまで、その不安さはいかばかりだろう?と思う。

で、いざ訪ねてみると昨日の錯乱は嘘みたいに落ち着いて晴れやかだったりする。

物事は必ずしも直線的に進行しない。でも、時とともに確実に進行する。僕はそばで見て、話に応え、宥め、冗談を言って一緒に笑い、そして帰って行く。それが今、僕にできることである。

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