『日本語は天才である』柳瀬尚紀(書評)
【8月17日特記】 この著者のことは知らなかったのだけれど、ジョイスやダールの翻訳者ともなれば只者ではない。英語と日本語の両方の能力、そして言葉遊びの優れた感覚がなければ訳せたものではないだろう。
ところが、この人、一般人から見たらあまりに言語能力が高すぎるのだろうか?
一生懸命言葉で遊んでいるのだが、我々とは少しユーモアのセンスがずれているのか、おかしみが上手く伝わって来ないのである。我々より先に行き過ぎてしまっているということなんだろうなあ。
イギリス人が読んだら大笑いするんだろうか? でも、日本人から見たらちょっと変な学者である。つまらないことで喜び過ぎに見える。しかし、逆にその変さ加減、そのずれ具合が妙に心地良かったりもする。
こういう人が大真面目に言葉遊びに取り組んでいる様になんとも好感が持てる、などと言うと大変失礼だが、やっぱり「好感が持てる」としか言いようのない、端正な言葉遊び指南書なのである。
ここで取り上げられ遊ばれているテーマは、回文、洒落、翻訳(英語の洒落を日本語の洒落にする)、漢字と漢語、字音と字訓、ルビ、万葉仮名、敬語、方言、いろは歌、など非常に多岐に渡る。これを面白いと思えるかどうかはこの著者の書きっぷりではなく読者の素養に左右されてしまうような気がする。
「日本語は天才である」って変なタイトルである。凡そ言語学者が書きそうにないタイトルなのだが、(まあ、英文学者であって言語学者ではないし)言わんとするところは解らんでもない。でも、日本語は人に巧く使われて初めてその天才ぶりを発揮できるのである。
そういうことを我先に主張して来ない著者の態度が快い本である。
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