『エロマンガ島の三人』長嶋有(書評)
【8月9日特記】 長嶋有はここのところ僕が贔屓にしている作家で、芥川賞も受賞しているが、世間ではそんなに知られた存在でもないみたいだ。
彼の書いた『サイドカーに犬』が映画化されて、その映画評が載っているサイトを(僕も同じようなサイトをやっているので)いくつか読んでみたら、「自分はこの作家を読んだことはないのだけれど、聞くところによると男性よりも女性に受ける作家らしい」みたいなことが異口同音に書かれていて少し驚いた。
そうか、この作家にはすでにそういう評判が立ってしまっているのだ。
確かに僕は女性の好む作家を好きになる傾向があるかもしれない。あえて差別的な表現を使うと女々しい男なのである。
そして、この作家は特に女性の描き方が巧いと思う。それは単に男性の目から見て巧いと思えるだけかもしれないが、僕が初めて彼の作品を読んだとき、ひょっとしてこの作家は女性なのか(ユウという名前ならどちらもあり得る)と思って調べたくらいである。いくつかの読書系のサイトでも確かに女性に好評を博している印象はある。
しかし、なにせ今回はタイトルがエロマンガである。エロマンガは女性には受けないだろ。「エロマンガ島でエロマンガを読もう」という馬鹿げた企画が通ってしまって、本当にバッグにエロマンガを詰めて旅行に行ってしまうゲーム雑誌の出版社の男3人の物語である。
さすがにゲーム雑誌の出版社だけあって登場人物がゲームおたくである。この手の話は女性には受けないだろ。そう思って読んでいるとなんか嬉しくなる。今回は登場人物がほとんど男ということもあるが、女よりも男のほうがよく描けているようにも思う。
で、短編集だからと舐めて読んでいたら、この表題作が全体の約半分である100ページもあって、結構人生の機微に触れる力作である。
かと思えば、そのあと2作はSFである。しかも結構シュール。そしてそれに続くのは小説現代の「官能小説特集」の執筆依頼に応じて書いた作品である(ただし、本人が「補遺」に書いているように、ぜんぜん「濡れない」乾いた小説である)。
さらに最後にくっついているのは(登場人物の名前が全てイニシャルに変えられているので気がつくまでに時間がかかるが)冒頭の表題作の後日談であり、これまた仰天するような展開である。
ここには、今まで一度も見たことがないような長嶋有がいる。ただし、描かれているトーンはいつもと同じ。人生の微妙な味がここにはある。時々はっとするような表現にも出会う。こうして見ると、長嶋有は決して専ら女性に受ける作家というわけではない。
長嶋有を初めて読む人にはこの作品は勧めない。しかし、いきなり『夕子ちゃんの近道』なんか読んでげっそりしてしまうかもしれない男性なら、いきなりこの本というのもアリかもしれない。やっぱり巧い作家だ。
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