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Sunday, June 10, 2007

映画『赤い文化住宅の初子』

【6月10日特記】 映画『赤い文化住宅の初子』を観てきた。関西圏でテアトル梅田1館のみ。しかもモーニング&レイトショーのみ。

つまり、関西でこの映画を観ようと思う人は早起きか夜更かしを強いられる訳だ。たまの日曜はサンデーというのに何が因果というものか(これが何からの引用か判る人はすごい)。

でも、さすがに客はよく入っていた。もっと少ないかと思った。なんと言っても貧困、それも絶望的な貧困を扱った映画である。今どきそんな映画にこれだけ客が集まるとは思わなかった。

僕らが子供の時には貧困ははっきりと目に見えて存在した。今はそれが消えてなくなった訳ではない。先鋭的な形で出て来ないように社会にいろいろな仕掛けが張り巡らされた結果、寸前で止まるケースも増えたし、堕ちるところまで堕ちてしまったケースも目に入りにくくなった。

でも、何かの具合で最後のセイフティ・ネットをするりと抜けてしまうと、やっぱり今でもすぐにこんな事態に陥るのである。

初子(東亜優)は三島くん(佐野和真)と一緒に東高校を受験したい。でも、貧乏で進学なんて出来そうもない。参考書も買えないし弁当もおにぎり1個だし、家の電気も止められる。

父は蒸発。母は過労死。

工員の兄(塩谷瞬)は、自分は高校中退なのに兄であるというだけで妹のために何でもしてやらなければならないのか、と初子に毒づく。

俺には何でもしてくれる誰かなんかいない。お前のほうから中学出たら就職すると言ってくれるかと思ったら受験勉強なんかしてる。俺のほうから進学諦めろなんて言うと、それじゃ全くのダメ兄貴だ。自分から言わないお前はずるい。

そんな理屈にも何にもなってないことを言う兄である。

初子がアルバイトをしている中華料理店のオヤジ(鈴木慶一)は初子との約束を違えてバイト代を勝手に減らしておいて、言う。

時給600円と言ったのは高校生の場合だ。親切で雇ってやってるんだ。中学生のくせにカネ、カネ言うな!

これまた理屈も何もあったもんじゃない。挙句の果てに初子を馘にする。

これをひとことで言うと"荒(すさ)んだ環境"ということになる。兄の給料が風俗に消えてしまうのも心が荒んでいるからだ。ラーメン屋のオヤジが辛く当たるのも彼の心が荒んでいるからだ。担任の女教師(坂井真紀)が教師としては全くやる気がなく男遊びを重ねているのも心が荒んでいるからだ。

そしてそんな荒んだ環境にあって、不幸は全て初子の肩にのしかかってくる。初子の心もおのずから荒んで来る。だから、やたらと独り言が多い。独り言の多い中学生って非常にやばい。

初子は母が大好きだった『赤毛のアン』の本を大切にしている。だが、一方でそのストーリーを憎んでいる。そんなに巧く行くはずがない。全てはアンの夢想ではなかったのかと。

そんな中にあって、クラスメイト三島の初子に対する気持ちは全く揺らぐことがない。「一緒に東高に行こう」「大人になったら結婚しよう」「家族になってホームドラマにするんじゃ」等々。

映画の中では外見的にも性格的にもちっとも魅力的に描かれていない初子のどこにそんなに魅かれるのか不思議なくらいだが、でも、僕ら自身もこの時期こういう理屈を超えた一途な恋愛をしたものだ。僕らの場合、それはいつまでも続きはしなかった。

だから僕らはハラハラしながら映画を見守る。せめて映画が終わるまではこの2人の淡くぎこちない恋が終わらないことを祈りながら見守る。いつか幻滅がやってくるんだと内心呟きながら・・・。

そして、それは多分主人公の初子も同じだ。多分彼女もいつか終わりが来ることをうっすらと感じている。

だが、一方三島にはそういう影は全くない。

だいたい初子が「やっぱり東高には行けん」と言ったら、まともな観察眼のある奴ならすぐに金がないからと解りそうなもんだが、「なんでじゃ?成績も上がってきたのに」と的外れな反応。脳天気。

でも、この三島の初子に対する、最後まで揺らぐことのない決然とした不動の愛──この描き方こそが、この監督のイデオロギーなのだろうなあと感じた。

この三島の存在が初子にとって一体どれだけの救いになっていることか!
現実の暮らしの中でこれほど強力な救いが常に傍にあるなんてことはまずありえないことだ。

タナダユキ監督自らが語っている。

絶望的な哀しみの中に在る愛しいものをフィルムに残したい。その衝動だけで映画を作りたい。そんなふうに思った。

とても良い映画を観た。UAのエンディングテーマが沁みた。

そして見終わってから振り返ってみると、印象に残るシーンが山ほどあった。現実の映像の中に突如として割り込んで来る初子の夢想。三島が訪ねて来て慌てて着替える初子。初子をおんぶする三島。遠慮がちに小指と小指を繋ぐ初子と三島。駅での別れとビスケット。

そして、とりわけ綾取りのシーンがなんか万感胸に迫るものがあった。

とても良い映画だった。

★この記事は以下のブログからTBさせていただきました。

アロハ坊主の日がな一日
気ままに映画日記☆

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Comments

TBありがとうございます。
自分がよかったと思った映画を誉めている人がいるとなんかうれしくなってしまいました。

Posted by: nakachan | Tuesday, June 12, 2007 at 00:56

> nakachan さん。

どうも。僕も綾取りとかUAとか、結構同じところで反応してる人がいるなあと思って。そういうのって、なんか嬉しいですよね。

Posted by: yama_eigh | Tuesday, June 12, 2007 at 09:21

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